生物の寿命は遺伝要因と環境要因により決定されることが個体と細胞レベルの研究で解明されてきた。今まで主要栄養素による寿命制御は調べられてきたが、ビタミンなどの微量栄養素については知見がほとんどなかった。研究代表者は、酵母細胞内のビタミンB6が欠乏すると細胞寿命が短くなることを見いだした。本研究の目的は、ビタミンB6による細胞寿命制御機構を解明することである。 前年度までに、出芽酵母の全ビタミンB6依存性酵素の中から、分裂寿命制御に関与する酵素を遺伝学的に同定した。また、ビタミンB6取込み酵素遺伝子破壊株のメタボローム解析から、ビタミンB6の欠乏による短寿命の原因はアミノ酸の蓄積であると推定した。そこで29年度は、短寿命のPLP依存性酵素遺伝子破壊株において細胞内アミノ酸がビタミンB6取込み酵素遺伝子破壊株と同様に蓄積している株を探索した。また、野生型株において、ビタミンB6取込み酵素遺伝子破壊株で蓄積していたのと同じ種類のアミノ酸量を増加させると短寿命となるかを調べた。 一方、ビタミンB6合成酵素遺伝子が老化細胞で転写誘導されることから、その転写誘導の仕組みを解明することにより、細胞老化の引き金となるシグナルや制御因子を明らかにすることを目指した。ビタミンB6合成酵素遺伝子のプロモーター解析によって推定された2つの転写因子はそれぞれアミノ酸とグルコース飢餓時に標的遺伝子を活性化することが知られていた。これらの転写因子遺伝子破壊株では、野生型株において見られたアミノ酸やグルコースの欠乏によるビタミンB6合成酵素遺伝子の転写誘導が見られなかった。また、これらの転写因子遺伝子破壊株の老化細胞ではビタミンB6合成酵素遺伝子の転写誘導が抑えられた。これらのことから老化細胞ではアミノ酸やグルコース飢餓時のシグナル伝達系が刺激されていることが示唆された。
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