本研究の主たる目的は「未開拓な銀河系バルジ方向のセファイドの金属量を導出し、バルジの星形成史を求めること」である。そのためには標準的な天体の観測から、セファイド型変光星(以下、セファイド)の化学組成解析方法を確立することと、実際に銀河系バルジ方向に位置するセファイドの高分散分光観測を行う必要がある。報告者は共同研究者とともに2016年12月に京都産業大学から南米チリのLa Silla観測所に移設された近赤外線高分散分光器「WINERED」の観測データを主に用いて、以下のような研究を行ってきた。 1、組成解析方法について報告者は東京大学の松永氏、近藤氏、Jian氏、谷口氏らと、近赤外線高分散データを用いた恒星の組成解析方法について議論を重ねてきた。最も基本的な恒星の物理量である有効温度については、WINEREDによる分光観測データによるスペクトルの吸収線を用いて導出できることが可能となった(Taniguchi et al. 2018)。また、恒星の有効温度への恒星自身の金属量が影響していることも、アーカイブデータを用いた解析によって明らかとなった(Jian et al. 2019)。恒星の金属量の導出方法については、WINEREDを用いて観測した指標となる2天体の解析から、モンテカルロ法を用いた導出方法を確立した(Kondo et al. in prep.)。これらの解析方法からセファイドの化学組成解析の土台が整備されたと言える。 2、観測対象であるバルジ方向のセファイドは遠方にあるため、太陽近傍のセファイドと比べても暗く南天での観測が必要である。WINEREDは今後さらに大口径の望遠鏡への移設が検討されており、観測に最適な環境が整う予定である。
|