研究実績の概要 |
抗がん剤誘発性味覚障害は、患者の生活の質を損なうだけでなく、その治療効果にも影響を及ぼす副作用の一つであるが、未だその発現メカニズムは不明であり、それに基づく有効な治療法はない。本研究では、従来の抗がん剤とは異なり、副作用が比較的少ないとされているが、味覚障害が認められるプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブに着目し、その味覚障害発現プロファイルをを解明することを目的とする。まずボルテゾミブをマウスに繰り返し投与を行い (1 mg/kg, twice/week, 4 weeks, s.c.) 、その味覚感受性の変化の仕方についてbrief-access testにより行動学的に検討した。その結果、5基本味の中でも酸味溶液に対する行動の変化 (忌避性の増大) が投与開始から16日目以降で継続して認められた。2種類の酸味溶液を用いて酸味感受性の変化を精査したところ、ボルテゾミブの繰り返し投与によりいずれの酸味物質に対しても同様の忌避性行動の増加が認められたことから(投与開始後23日目及び26日目)、ボルテゾミブは酸味感受性を増大させることが示された。行動学的変化が認められたマウスにおける味蕾の明らかな形態変化は認められなかった(HE染色による評価)。酸味受容に関与するとされるⅢ型味細胞の味蕾あたりの数に変化はなかった(免疫組織染色による評価)。そこで酸味受容に関わる分子の一つであるPKD2L1のタンパク質レベルでの発現量について免疫組織染色により解析したところ、ボルテゾミブ投与開始後26日目において有郭乳頭で優位な蛍光強度の増大が認められた。これらのことからボルテゾミブ投与マウスにおいて酸味感受性が増大し、それは少なくとも一部PKD2L1の発現変動に起因するものと考えられる。
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