本研究の目的は、17世紀初期のロンドンで出版・再出版されたエリザベス朝期の劇作品およびそれらの生んだ模倣作品の分析を通じて、当時の演劇出版文化が政治的・宗教的な潮流と密接な繋がりをもっていたことを明らかにすることにあった。 本研究は、三部構成である。第一部では、Alan B. Farmer、Lesser Zacharyらによる先行研究を検討して、出版市場がどのように機能したかを把握するとともに、書誌情報データベースを活用して、ジェイムズ朝期に出版された宗教関連書、詩集、演劇を広く読み、当時の出版物の政治的・宗教的な傾向を描き出した。第二部では、書籍商たちに焦点を当てた。特にナサニエル・バター、ジョン・ライト、トマス・アーチャーらの活動を分析し、ジェイムズ朝の演劇作品の出版の背景に、プロテスタント主義の再興を希求していた多くの市民にアピールするという出版界の戦略があったという仮説を提示した。第三部では、プロテスタント主義を讃えたエリザベス朝期の人気作品がジェイムズ朝の初期に積極的に売られたという、第一部と第二部を通して研究代表者が描き出した構図をふまえ、ジェイムズ朝初期に出版・再出版された劇作品を読み解き、それらの作品とプロテスタント主義の再興現象の関係を分析した。そして、最後に本研究の仕上げとして、シェイクスピアの悲劇を含むジェイムズ朝期の劇作品の分析を行い、同時期に執筆・上演されたジェイムズ朝期の劇作品も、こうした演劇出版文化と強く結びついていたことを提示した。 平成29年度(最終年度)、全三部を完成させることができた。本研究を進める過程で執筆した論文は随時査読誌に投稿する予定である(投稿・掲載済みの論文もあり)。
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