研究課題/領域番号 |
16H07338
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
原 佑介 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (40778940)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 戦後日本文学 / 現代韓国文学 / 在日朝鮮人文学 / 植民地主義 / 引揚者 / 小林勝 / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後日本語文学と解放後韓国語文学において脱植民地主義がどのように追究されたかを検討する比較研究である。第一年目となる今年度は、日本語論文と韓国語論文1本ずつ計2本の執筆を中心に、研究活動をおこなった。 日本語論文は、国際高麗学会の学会誌『コリアン・スタディーズ』5号の特集論文として執筆した。同誌は、2017年6月に刊行予定であり、現在最終校正を終え、印刷中である。韓国語論文は、同志社コリア研究センターと高麗大学民族文化研究院による国際共同研究「朝鮮半島と日本を越境する植民地主義および冷戦の文化」に参画し、その一環として執筆した。現在、受理済みの段階である。同論文を収録した著作物は、国際共著論文集『冷戦研究の最前線』(高麗大学民族文化研究院、2017年)として、韓国で2017年6月に刊行予定である。 研究発表を2回おこなった。1回目は、原佑介「一人一人の死を数える――日本人作家が描いた朝鮮人虐殺を通して」(国際ワークショップ「戦争の記憶の継承と写真の役割」立命館大学国際平和ミュージアム、2016年6月11日)である。同発表の研究成果をもとに、今後、中西伊之助「不逞鮮人」・湯浅克衛「カンナニ」・小林勝「万歳・明治五十二年」の比較研究をおこなった韓国語論文の執筆を進め、「3・1独立運動」100周年に当たる2019年に、韓国の雑誌に投稿する予定である。2回目は、原佑介「『引揚げ文学』と在日朝鮮人文学」(「『引揚げ文学論序説』を受け止める」立命館大学国際言語文化研究所、2017年1月29日)である。同発表の原稿を整理し、『立命館国際言語文化研究』(立命館大学国際言語文化研究所)の2017年度秋季もしくは冬季の号の特集論文として投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口頭発表「一人一人の死を数える――日本人作家が描いた朝鮮人虐殺を通して」(国際ワークショップ「戦争の記憶の継承と写真の役割」立命館大学国際平和ミュージアム、2016年6月11日)では、おもに植民地期に活躍した作家中西伊之助の「不逞鮮人」の分析をおこなった。文学史的にみて中西は、本研究の核心的な対象である戦後作家小林勝の先行者という位置づけにある。同発表は、今後近現代日本文学における脱植民地主義の系譜を整理していくための準備作業とした。口頭発表「『引揚げ文学』と在日朝鮮人文学」(「『引揚げ文学論序説』を受け止める」立命館大学国際言語文化研究所、2017年1月29日)では、本研究がいう「戦後日本語文学における脱植民地主義」のおもな担い手である引揚者たちの文学について、研究史上初めて体系的に取り上げた朴裕河『引揚げ文学論序説』を手がかりに、その可能性と今後の課題、そして在日朝鮮人文学との比較の必要性という論点を検討した。 論文「植民地郷愁を撃て――小林勝「「懐しい」と言ってはならぬ」と「日本人中学校」」(『コリアン・スタディーズ』5号、国際高麗学会、2017年6月刊行予定)では、1970年前後の小林勝の文学と思想の要点を整理し、金石範をはじめとする同時代の在日朝鮮人作家たちとの比較研究をおこなった。また、韓国語論文「植民者の息子が闘った朝鮮戦争――小林勝の反戦運動と文学」(太田修・許殷編著『冷戦研究の最前線』高麗大学民族文化研究院、2017年8月発行予定)では、朝鮮戦争期の小林勝の動向を、研究史上初めて詳細に明らかにした。これらの成果を通じて、1950年代初頭から1970年前後にかけての小林勝の文学的・思想的変遷を検討するとともに、1960年代から70年代にかけての金石範と高史明を中心とする在日朝鮮人文学における引揚者文学との関連性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
国際的な比較研究をおこなう本研究の問題意識からみて、昨年度に韓国語論文を1本仕上げたことは、大きな収穫であった。このような成果を踏まえ、今年度以降も、韓国語論文の執筆や韓国の学会・研究会での発表など、韓国の学界に向けた研究成果の発信をいっそう積極的におこなう。 本研究の最重要課題のひとつである解放後韓国文学の研究を進める上でも、同志社コリア研究センターと高麗大学民族文化研究院による国際共同研究は、非常に有意義な研究活動の場を提供してくれるため、今後も積極的に参画し、研究者ネットワークの形成を積極的に進める。 2017年5月現在、1本の日本語論文の執筆を進めている。前年度の研究発表の成果を踏まえたものであり、「引揚げ文学」(朴裕河)の研究史をまとめる。本稿は、秋以降の『立命館国際言語文化研究』に掲載される予定である。 また、1本の韓国論文の執筆を進めている。小林勝の初期小説「フォード・一九二七年」の作品分析を中心に、戦後日本文学にあらわれた植民地朝鮮における日本人と朝鮮人の出会いの表象について論じるものである。この論文は、秋以降、『SAI』もしくは『尚虚学報』など、しかるべき韓国語雑誌に投稿する。 そのほか、在日朝鮮人文学および解放後韓国文学における脱植民地主義の問題について、積極的に研究を進める。
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