本研究は、おもに1960~70年代の日本と韓国のポストコロニアル文学が、脱植民地主義の主題をどのように追究したかを比較研究するものである。最終年度となる本年度は、これまでの研究成果をまとめる作業を中心に研究を進めた。植民地朝鮮生まれの戦後日本人小説家小林勝の総合的研究の成果をまとめた単著の執筆を終えた。時期がずれこみ、本年度中の出版には間に合わなかったが、2018年度中に新幹社から刊行することが決定している。戦後日本ポストコロニアル文学史における最重要作家の一人に挙げられる小林勝の総合的研究書は、研究史上本書が初となる。朴裕河が『引揚げ文学論序説』において提唱した日本人引揚者の戦後文学の研究に、少ならかぬ進展をもたらすことが期待される。 本年度は、口頭発表を2回おこない、日本語論文2本、日本語書評1本、韓国語論文1本を発表した。これらの成果の多くは、小林勝の朝鮮戦争期の動向、朴裕河『引揚げ文学論序説』の批判的検討などを含み、上記の単著の一部を構成する。 本年度以降の本研究の主要な比較研究のテーマは、「日本と朝鮮の旧「皇国少年」たちは戦後/解放後どのように出会うのか」というものであり、1920~30年代に日本帝国の各地で生まれ、帝国崩壊後に多様な経験をした日本と朝鮮の文学者たちの戦後/解放後の接触に着目した。本年度は、後藤明生、李浩哲、そして李恢成という日本と朝鮮のポストコロニアル文学史における重要作家たちのポストコロニアルの出会い(再会)の様相を明らかにした。
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