フェノールクロスカップリング体は多くの医薬品や生物活性天然物、機能性材料等に見られる骨格であり、その合成法の開発は重要な研究課題として注目されている。世界中の様々なグループによって合成法が報告されているが、短工程かつ確実性の高い手法は発展途上の分野である。我々はこれまで、キノンモノアセタール(QMA)に対して様々な求核種を位置選択的に導入する手法について研究しており、高度に酸素化されたビアリールやターフェニル、オリゴアレーン類など様々な骨格の構築に成功している。しかし、本法で用いることのできる求核種は保護されたフェノール、すなわちフェニルエーテル類がほとんどであり、無保護のフェノール類の導入はあまり検討されていなかった。このような背景下、我々は前年度にQMAに対して効率的にフェノール類を導入し、フェノールクロスカップリング体を得る手法を報告している。本法は、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中でフェノール類の存在下、一般的なブレンステッド酸を用いてQMAのアセタールを活性化することで速やかに進行し、位置選択的に反応したフェノールクロスカップリング体が得られる。同様の反応は2016年の初めにKurtiらによって報告されているが、彼らの手法とは異なりフェノールのパラ位で反応した生成物が得られる。 今年度は、本手法の応用として種々の骨格の構築を検討した。その結果、本手法で得られたフェノールクロスカップリング体を求核種として用い、再度反応を行うことでフェノール三量体が得られることを見出した。また、本法の生成物であるフェノールクロスカップリング体から脱水することで、天然物に見られる骨格であるジベンゾフランが得られることを見出した。 以上の研究成果を国内学会および国際学会で発表し、論文への投稿も行った。
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