昨年度に引き続き以下の項目に取り組んだ。 1. 神経細胞内のα-シヌクレイン (α-syn)分解機構の探索:ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に対して、α-synをコードするSNCA遺伝子を強制発現させた後、α-syn preformed fibrils (pffs)を処置すると細胞内にα-synの凝集が確認される。これに対してDJ-1をノックダウンさせるとα-syn凝集の著明な増加が確認できたことから、DJ-1が細胞内でα-synの分解に関与することが示唆された。さらに、DJ-1と細胞内タンパク質分解系(特にオートファジー)の関与が近年明らかにされていることから、オートファジー関連マーカーのタンパク質発現量を調べたところ、DJ-1ノックダウンによりオートファジーに変調をきたすことが示唆された。 2. α-synによるミクログリアの活性化に対するDJ-1結合化合物の抗炎症効果の検証:α-synオリゴマーがミクリグリア細胞膜上のToll様受容体2 (TLR2)を介して炎症を誘導することが報告されている。昨年度はTLR2リガンドであるペプチドグリカン (PGN)でミクログリアを刺激すると炎症性サイトカインのmRNAレベルが増加することを見出した。過去に我々の研究グループではDJ-1に結合し作用を表す化合物を見出しており、これがミクログリアにおけるPGN誘発性の炎症反応に対し抑制作用を持つか調べた。その結果、DJ-1結合化合物の前処置により、PGNによって誘導される炎症性サイトカインmRNAの増加が抑制されることが分かった。さらに、炎症性シグナル伝達において重要な転写因子であるNF-κBの核内移行を抑制することも見出された。 以上の結果により、DJ-1は神経細胞内でのα-syn蓄積およびα-synによるミクログリアでの炎症誘導いずれにおいても治療標的となりうることが示唆された。
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