研究課題/領域番号 |
16H07347
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
中原 翔 大阪産業大学, 経営学部, 講師 (50780681)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 組織不祥事 / 構築主義 / 言語論的転回 / 系譜学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、組織を取り巻く利害関係者がどのように組織不祥事を作り上げているか(かつ、それにどう対処すべきなのか)を明らかにすることである。より具体的には、本研究は組織不祥事を「様々な利害をもつ人々のクレーム申し立て活動を通じて問題化されたもの」と定義し、これを調査するための理論的検討と経験的検討を実施する。 初年度となる本年度では、当初の計画通り、組織不祥事の理論的検討を実施した。これらの研究業績は、国内外を問わず、広く発表できた。まず海外では、組織不祥事の理論的アプローチを類型化し、精緻化するための学会報告を行った(Nakahara, 2017)。この理論的アプローチは、次の3つのアプローチに類型化された。第一に、社会規範や組織規範を参照した上で組織不祥事の根絶を目的とする規範的アプローチである。第二に、組織不祥事を根絶させるのではなく、むしろより多くの人々に組織不祥事の存在を知らしめようと定義活動を行う認知的アプローチである。そして第三に、組織不祥事の根絶でも周知でもなく、その語られ方に着目する言語的アプローチである。この学会報告では示唆に富むコメントが少なからず得られたが、現在では、このコメントをもとに加筆・修正を加えて査読付き国際雑誌へ英語論文を投稿中である。 国内では、理論的検討を具体的な文脈において議論すべく、東芝クレーマー事件を対象とした学会報告を行った(中原, 2017)。この事件は、東芝のビデオデッキに製品欠陥が見当たらない状況にあっても、東芝が消費者からクレームを受けてしまい、そのクレーム対応の誤りが社会問題化した事例であった。この学会報告では、この事件を対象とした事例記述を通じて、企業側がいかに対応すべきだったのかを再検討した。この学会報告においても、示唆に富むコメントが少なからず得られたが、そのコメントをもとに査読付き論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織不祥事の経験的検討を行うという目的に対して、その理論的基盤を固めるための理論的検討を行うことができた。特に、言語的アプローチの理論的基盤となる構築主義(constructionism)については、「社会問題の構築主義」を再訪し、この議論をめぐって激化した方法論論争を、現在の議論を包括的に辿りながら再検討した。その結果、この方法論論争の方途には、単に経験的検討を行うための構築主義(エンピリカル・リサーチャビリティ)ではなく、政治性を前提とする構築主義(ポリティカル・リサーチャビリティ)の可能性があることを示した。こうしたポリティカルな構築主義のあり方については、既にミシェル・フーコーやジュディス・バトラーが言及しているものでもあるため、今後はより古典的な議論の再検討が見込まれる。以上を踏まえると、本研究課題は、総合的に、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
第一の研究推進方策は、論文収集である。データを分析するに足る雑誌記事、新聞記事、調査報告書等は既に入手しているものの、重要なことは実務的のみならず、学術的にも組織不祥事がどのように語られてきたのかを検討することである。そのため、追加的な論文収集を通じて、それらを熟読しながら実際の分析作業に着手していく。第二の研究推進方策は、古典の再解釈である。既に述べたように、本研究では単なる経験的検討ではなく、政治性を前提とした場合の経験的検討を行う必要がある。そのため、後者の意味での経験的検討を行っている古典の再解釈を通じて、具体的な分析作業の手がかりを得る。
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