研究課題/領域番号 |
16H07350
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
榧木 亨 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (10782310)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 礼楽 / 楽律学 / 朱子学派 / 徂徠学派 / 太宰春台 / 蟹養斎 |
研究実績の概要 |
本年度は本研究の主たる分析対象である太宰春台『律呂通考』および蟹養斎の楽および楽律関連の文献を収集し、内容の分析を行なった。 太宰春台『律呂通考』については、東京芸術大学附属図書館・東京大学駒場図書館・筑波大学附属図書館・名古屋市鶴舞中央図書館・西尾市岩瀬文庫・関西大学図書館・龍谷大学図書館・島根県立図書館・九州大学附属図書館などにおいて資料調査を実施した。同書は写本のため、各写本間において若干の文字の異同が認められるが、内容分析に支障が生じるような程度ではない。ただし、底本の選定については、未見の版本が数点あるため、それらの収集を待って判断したい。内容については、基本的に師である荻生徂徠の『楽律考』の内容と大きく相違することがないことが確認できた。 蟹養斎については、中村惕斎に端を発する朱子学派の楽律研究を継承しつつ、より一般的な楽学を確立すべく、様々な著作をあらわしていたことが明らかになった。惕斎においては、楽の研究は楽律学という極めて専門的なものであったが、養斎に至ると楽学の振興を目指すべう、楽学の重要性が主張されることとなった。このような背景には、礼の実践にも積極的であった養斎が、学問としての楽だけではなく、実践することも可能な楽を求めた結果であるといえる。 以上のように、本年度は太宰春台『律呂通考』の内容分析を行なうとともに、蟹養斎の楽研究の様相とその特徴の解明を行うべく研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に収集を予定していた資料のうち、太宰春台『律呂通考』についてはほとんどの版本を収集することができたが、一部の版本については所蔵先の事情(改修工事等)により収集できなかったため、次年度も継続して収集していきたい。また、蟹養斎に関する資料については、予定していた資料をすべて収集することができた。 収集した資料の内容分析についても、おおむね順調に行なうことができた。太宰春台『律呂通考』については、収集した版本間で大きな相違がなかったため、比較的早い段階で内容分析を行なうことができた。しかし、内容自体は独創的な部分が少なく、この資料だけでは太宰春台の楽研究に見られる特徴を明らかにすることができないため、今後は関連する資料と比較・検討することにより、内容の充実を図りたいと思う。また、蟹養斎については、当初想定していた通り、楽の実践的な研究を行なっていることが確認できた。 本年度に得られた成果については、2016年12月に中国人民大学において開催された「国際儒学フォーラム 2016」において「日本近世礼楽研究―以楽的実践為中心」という論題で報告した。 以上のことから、今年度の研究はおおむね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に収集することができなかった太宰春台『律呂通考』の収集を行うとともに、同書の底本を選定する。また、春台『律呂通考』の特徴とその意義を明らかにするため、春台の書簡(「答田安公問」など)や、『楽律考』に対する各種注釈(荻生北渓・山県大弐・蒔田雁門など)との比較・検討を行なう。 蟹養斎については、楽律学から楽学への変化の理由を探るため、徂徠学派からの影響の有無について検討する。これにより、日本近世期における楽および楽律研究の中に見られる相互関係を明らかにしたい。 また、本研究課題は次年度が最終年度となるため、学会での口頭発表ならびに学術誌への論文投稿を行ない、成果を報告する。
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