東京大学へ提出した博士論文を発展させ、2017年度3月に出版した単著『紛争下における地方の自己統治と平和構築』が、2017年度国際開発学会賞奨励賞を受賞した。博士論文および上記単著での検討に基づいて、平和構築における地域社会の貢献の在り方について、研究を深め離ことができた。特に、クーデター、内戦によって政権が頻繁に移り変わる中央政府のもと、紛争影響下において生活を営む地方農村部の人々の暮らしぶりの変化と人々の生活認識、そして、農村部の人々の「中央政府」への認識理解を深めることができた。 農村部における人々の認識は、国際社会や国際援助に携わる国連や援助実施機関、NGOなどの「中央政府」への評価とは異なり、独裁政権や軍閥の影響下にある生活が「今より良かった」とするような、認識主体による「ズレ」が明らかになった。国際社会などの外部者が、独裁政権や軍閥を「望ましくない体制」と見る認識に対して、紛争影響下にある農村住民たちは、独裁政権や軍閥が提供する生活支援や補助金などから評価し「良い政権」と評価するのである。ここには、「民主主義体制」や「人権」、「ガバナンス」、あるいは、「市場経済体制」等を評価する外部者に対して、「自らの生活」に依拠して政権を評価する農村部の人々の姿があった。 外部者(国際社会や援助関係者等)と内部者(農村部住民)の間に見られたこの認識の差異は、「理念」と「実利」の差異とも見ることができ、理念の追求(民主主義やガバナンス)のみでは、農村部の人々の実利に基づいた政権・有力者支持を変えていくことが不十分であることを示している。
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