本研究では、生体透過性の高い近赤外光による光触媒反応を行うためのアップコンバージョン光触媒材料の開発を目指して、様々な希土類ナノ結晶を合成し、その光物性と光触媒活性の評価を行った。 平成28年度までの成果として、様々な希土類元素(Ln)の錯体からナノ結晶を合成し、XRDとTEMにより構造を評価した。その結果、形成したナノ結晶は希土類フッ化物(LnFn)であることがわかり、それらの光触媒活性の評価を行った。 平成29年度は、まずアップコンバージョンの検証のためにユウロピウム(Eu)を用いた発光材料の作製を行った。合成溶媒としてオレイルアミンを使用すると還元雰囲気となり二価のEuナノ結晶が形成した。一方、オレイン酸を用いることで三価のEuナノ結晶が形成し、使用する溶媒を変えることでEuの価数を制御することに成功した。その結果、Eu三価に由来した赤色の発光を観測し、アップコンバージョン発光を行うための発光部位とした。 次に、光触媒活性の評価を各種希土類ナノ結晶について行った。水溶液中での分散性を向上させるために、塩酸により表面修飾剤を除去し、親水化させた試料を用いた。クマリン水溶液に希土類ナノ結晶を加え、キセノンランプを用いて光照射し、一定時間ごとに溶液を採取してHPLCにより定量することで光触媒活性を評価した。平成28年度までは生成物の7-ヒドロキシクマリンを蛍光測定により定量していたが、HPLCを用いることで分解能も同時に測定することが可能となる。その結果、生成物の濃度増加とともに、反応物のクマリンの分解が観測され、希土類元素ごとに分解能や生成量が異なることを明らかにした。さらに複数の希土類を混合したナノ結晶の合成を行い、分解能の向上を達成した。
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