平成29年度は、当初の予定通り、1.国内文献レビュー調査、2.分析フレームの設定、3.国内先進自治体調査を実施した。1.文献調査では、平成28年度に引き続き文献とウェブを用いて既存の義務教育費の公的負担の議論について、ナショナルミニマムと教育の機会均等の視点から整理・検証を行った。2.分析フレームについては、地方分権改革後の教育費・義務教育費に関わる47都道府県のデータ収集を行い、義務教育費の大半を占める教員給与費とそれ以外の経費に区分をした。特に、地方分権化における権限移譲の中でも義務教育諸学校の教員給与費に着目した。3.国内調査については、地方分権改革後の自治体の特性を考慮した義務教育費の予算制度に着目し、公費私費区分等の予算制度の実態を整理することで、地方の実態に合わせた教育財政と地方間格差の関係について明らかにした。具体的には、関東と関西の政令指定都市2市と九州地方にある規模の異なる2市、中国地方にある1町について教育委員会における学校予算編成への関与、学校予算制度、学校徴収金の視点から調査を行った。財務会計システムと学校教育予算書を用いて、地方分権化に伴い学校裁量予算が拡大する中で、「総額裁量制」と「積み上げ方式」の予算が自治体間格差に与える影響について考察を行った。 政令指定都市における教職員給与の権限移譲については、教育関係者と関西にある政令指定都市の関係者に聞きとりを行い、新たな給料表の成立や教員評価と連動した給料表が教員給与「格差」の一要因となること、今後、教員給与において自治体格差が拡大する懸念があることを検証できた。同時に、新しい給料表の選定・策定方法は、教育委員会と教育関係機関との折衝があることを明らかにした。 自治体独自の教育費の決定過程に政治的側面の関与している可能性を検証するために、政策を決定する際の県議会等の会議録と教育費の推移を検証した。
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