並列化有限要素法の開発のために必要となる線形解法の効率的な前処理,及び並列アルゴリズムを検討した.以下に得られた知見を要約する. (1)線形方程式の前処理では,前進・後退代入を簡素化できるブロック化前処理を使用することが多い.しかし,並列度数の増加に伴い,前処理で無視される非零要素の数が増えるので,収束特性は悪化する傾向にある.そこで,フィルインを許容した不完全コレスキー分解(IC)前処理を導入した.静磁界,時間領域渦電流解析から得られる方程式に適用したところ,フィルインを無視したIC前処理よりも収束特性が概ね30 % 改善することに成功した.フィルインの探索範囲は対角ブロック内に限定されているので,フィルイン発生位置の決定は容易に並列化でき,非常に良好な並列性能を示すことを明らかにした. (2)積層電磁鋼板を含むモデルや高周波で駆動するIH調理器では,外側の空気領域を扁平な要素で離散化する.この場合,線形解法の収束が遅くなる傾向にあり,収束特性の改善が望まれていた.そこで,上記で検討したフィルイン付きIC前処理を導入し,計算速度向上を試みた.特に,IH調理器モデルの周波数領域渦電流解析において,フィルイン付きIC前処理はフィルインを無視する場合よりも80 % 収束特性が改善された.その恩恵があり,約4倍の高速化が達成できた.一方,開発した前処理はフィルイン探索というオーバーヘッドが発生するため,それを抑えられる適切なオーダリングの開発が今後の課題である.
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