研究課題
口腔内の2大感染症の一つであるう蝕(虫歯)は、う蝕原性菌のバイオフィルム形成と深く関わっている。う蝕を防ぐ方法として、バイオフィルム阻害剤を用いる手法などの開発が試みられており、申請者は、これまでに細菌のバイオフィルム阻害剤の研究を進めてきた。しかしながら、病原微生物に対する免疫力に注目してバイオフィルム形成を予防する方法の開発は進んでいない。本研究では、う蝕原性菌への宿主免疫応答に着目し、抗原特異的な抗体の産生を誘導するう蝕原性菌のT細胞抗原エピトープを同定し、免疫応答によるう蝕の病態を解明することで、う蝕に対する新しい予防法の開発へ向けた研究基盤を確立することを目的とした。さらに、低分子化合物によるバイオフィルム阻害剤を併用することで、より効率的なう蝕の予防法の開発を目指した。まず、最も代表的なう蝕原性菌であるS.mutansのin vitroにおけるバイオフィルム形成において、フラボノールの一種である化合物を添加した所、化合物の濃度依存的にバイオフィルム形成を阻害する可能性を示唆した。また、この化合物を培地中に添加することでS. mutansの酸耐性能をも低下させる可能性を示唆した。さらに、宿主の免疫応答にも着目し、S. mutans特異的な抗体を産生させるため、S. mutansを遠心分離により分画し、細胞壁、細胞膜、細胞質に分画した。この分画したS. mutans抗原を用いて、抗原提示細胞及びヘルパーT細胞とin vitroで反応させ、抗原特異的な抗体の産生を誘導するのに必須であるT細胞表面タンパク質の発現を誘導するS. mutansの抗原分画について同定しつつある。
2: おおむね順調に進展している
当該年度に予定していた研究項目について研究を行い、以下の点が明らかになった。1) フラボノールの一種である化合物がS. mutansのバイオフィルム形成を濃度依存的に抑制できることを見出した。また、この化合物を用いることでS. mutansの酸耐性能が減少することも見出した。2) S. mutansを全菌体から分画し、抗原特異的な抗体の産生を誘導するのに必須であるT細胞表面タンパク質の発現を誘導するS. mutansの抗原分画について同定しつつある。さらに、そのT細胞表面タンパク質を発現するヘルパーT細胞とB細胞を反応させ、B細胞の活性化とクラススイッチを評価する系についても立ち上げつつある。研究計画書作成の段階で、目標を明確にし多方面からの検討を柔軟に行ったことにより概ね順調に計画が進んだ。
今後、現在同定しつつあるS. mutansの抗原分画を、二次元電気泳動により分離し、プロテオミクス解析を行うことにより、抗原依存的な抗体産生へのクラススイッチを誘導する抗原エピトープを同定する。その際、クラススイッチに必須であるヘルパーT細胞の表面タンパク質の発現を指標にするだけでなく、B細胞のクラススイッチをFlowcytometryあるいは、ELISAを用いて解析する。また、このエピトープを欠損する変異株を樹立し、クラススイッチの誘導能が減少していることを確認する。前年度の研究成果から得られたS. mutansのバイオフィルム形成阻害の研究成果とともに、う蝕原生菌のT細胞エピトープの同定を行い、得られた成果をまとめ発表を行う。
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International Journal of Inflammation
巻: 2017 ページ: -
10.1155/2017/1324735