数学的概念の中には、実際の事象や経験を例えに用いることが非常に重要な単元がある。しかしながら、数学学力の向上が喫緊の課題となっている開発途上国の環境や生活には、われわれが一般的に用いている例えが乏しい場合がある。研究代表者はこの「例え」が機能していないことが開発途上国の低い数学学力の原因の1 つではないかと考え、「例え」を必要とする概念である負の数を含む整数計算を対象にアフリカ諸国にて調査を実施してきた。平成28年度には、調査紙の作成およびザンビア共和国、マラウイ共和国にて予備調査を実施してきた。そして当該年度である平成30年度には、予備調査の結果を踏まえ、本調査用紙の作成および予備調査の研究成果報告を第47回全国数学教育学会にて行った。報告内容の概要は、誤答例と例えの関連性に着目した結果、独自のアルゴリズムによる解答をしていることが明らかになったとともに、計算問題の正答率の高い低いに関わらず「例え」が機能していないことが明らかになったというものである。これらの結果を踏まえ、本調査を平成30年度3月に行った。本調査の結果の分析は現在行っている最中であるものの、予備調査を含むいくつかの成果は出ており、ザンビア教育省の研究協力者であるチレア氏とともにZambia Journal of Teacher Professional Glowthへの投稿予定である。本研究の実績としては、これまで行われてこなかった「例え=メタファー」を軸にした調査から、アフリカ諸国の低い数学学力の背景に対し、メタファーの有無という視点を導入でき、その研究可能性を示唆できたことである。また、本研究によりザンビア教育省およびマラウイ教育省からの研究許可を取得済みであることと、現地協力者を得ることが出来ているため、今後の研究可能性が大きく進展した。
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