研究実績の概要 |
本研究課題では, 変量効果モデルを用いた小地域推定法が抱える諸問題に対して, 数理統計の理論的側面から有用な解決策を新たに提案し, シミュレーション実験によって数値的な比較を行い, 現実のデータ解析での有用性を示すことを目的として実施した. 主な内容は以下の通りである. (A) データが正値や比率値をとるケースに対してはリンク関数を用いたモデルが有用であり, 簡便性のため, これまでベイズ流のアプローチによる手法が利用されていた. しかし, ベイズ流のアプローチでは事前分布の設定に結果が左右される等の弱点がある. そこで, 経験ベイズ法に基づく頻度論的なアプローチについて考察し, 容易に実行可能な推定アルゴリズムを提案した. (B) リンク関数を用いたモデルにおいて, 使用するリンク関数は使用者によって恣意的に決定される. しかし, データに対して不適切なリンク関数を使用してしまうと, 地域平均の推定精度が悪化してしまう. そこで, スプライン関数を用いたリンク関数のモデリングを導入し, モデルパラメータだけでなくリンク関数も同時推定することで, データに対して適合的に小地域モデルを当てはめる手法を提案した. (C) 変量効果は地域間の異質性を表現するために利用されているが, 地域によっては変量効果を必要としないケースがある. そこで, 頻繁に用いられる自然指数型分布を用いた変量効果モデル(階層モデル)に焦点を当て, 地域ごとの変量効果の有無の不確実性もモデルに組み込んだ手法を提案した.
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今後の研究の推進方策 |
(A)で検討したリンク関数のモデルは有用であるが, 誤差分布や変量効果に対する分布の仮定が強いとの指摘がある. そこで分布の仮定を必要としないセミパラメトリックな手法について考察する. (C)での研究過程で, 変量効果の真の分布とモデルで仮定している分布が異なっている場合, 従来の手法の推定精度が予想以上に悪化することがシミューレション実験により確認することができた. (C)では変量効果の分布を柔軟なものに置き換えるというアプローチを図ったが, 従来手法のロバスト化について考察する.
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