本研究では、キイロショウジョウバエをモデル生物として用い、味覚感覚神経とシナプス接続をしている二次神経細胞がその下流でどのような神経回路と接続しているか、それらの二次神経細胞が味覚行動においてどんな役割を果たしているか、これらの細胞が味刺激に対してどのように反応するか、の3点を明らかにすることを目指した。私は以前の研究で、甘味を受容する感覚神経とシナプス接続している二次神経細胞を遺伝学的に標識する15系統を得ていたので、これらを用いて解析を行った。 まず、各系統で標識される神経回路の構造と接続の解析を完了させた。第一に、各種類の二次神経細胞の神経線維全体、入力・出力部位を可視化し、脳内における回路構造を記載した。第二に、匂い連合学習において甘味の報酬情報を伝えることが知られていたオクトパミン神経細胞が各種類の二次神経細胞とシナプス接続を作っているか否かを検討し、4種類について接続があることを見出した。 次に、味覚行動実験において二次神経細胞のみを遺伝学的に操作できるよう、新たな系統の探索を行った。私が以前の研究で得た系統は味覚二次神経細胞を標識するが、同時に他の神経も標識するため、これを用いた行動実験では、観察された表現型の原因がどちらにあるのか判別できない。そこで、二次神経細胞を標識するが他の細胞は標識しない系統を探索し、3系統を得た。 さらに、ハエの口に与えた味刺激の濃度と、脳内の味覚神経細胞の反応を同時に計測する実験系を確立した。ハエは小さく、口に与える味物質の濃度を直接、操作できない。そこで、味物質に色素を混ぜておき、光センサーでハエの口のそばの色素濃度を計測することで味刺激の強さをin situで記録できるようにした。これと既に確立している脳内神経細胞の蛍光イメージングを組み合わせ、刺激と反応の間の関係を解析できるようにした。
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