原核生物のDNA複製はゲノム上の1箇所(oriC)から複製開始し、その制御はDnaAという複製開始因子に依存した機構が一般的と考えられてきた。しかし、これまでにラン藻にはDnaAに依存する種(Synechococcus elongatus PCC7942)とDnaA非依存の種(Synechocystis sp. PCC 6803)が複製開始機構を持つ種がいることを、原核生物において初めて明らかにしてきた。また、ラン藻が共生し誕生した葉緑体においては、dnaA遺伝子が保存されていないことと系統樹解析の結果より、DnaA非依存型ラン藻が葉緑体の祖先であることを提唱してきた。しかしDnaA非依存的複製開始機構、またなぜDnaA非依存へと進化したのかは未だに不明である。そこで、本研究では(1) DnaAに依存しない複製開始機構の解明(2)その進化的背景の解明を目的とし、ラン藻と葉緑体ゲノムにおいて解析を行う。 本年度は(1)の計画において、上記のDnaA依存度の異なる2種のラン藻を用いて、細胞内での複製フォークモニター系を構築し、解析を行った。どちらのラン藻も1細胞内に複数コピーの染色体を保持しているという特徴をもつ。興味深いことに、DnaA依存度に関係なく、どちらの種においても複数コピーゲノムのうち一部の染色体のみが複製していることがわかった。さらに、この複製される染色体は、細胞の成長速度に依存していることも明らかにした。このことから、DnaA非依存のラン藻においても、厳密な複製制御機構の存在が示唆される。
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