研究課題
本研究では多核金属錯体に解離性プロトンを有する配位子を導入し、水の酸化反応に対する触媒機能を評価する。本年度は多核金属錯体の合成および精製、得られた錯体の基礎物性や触媒機能を調査した。合成した錯体はESI-MS、単結晶X線構造解析、元素分析によって同定を行った。本錯体を有機溶媒に溶かし塩基の添加に伴う吸収スペクトル変化を測定したところ、錯体から多段階のプロトン解離が確認された。電気化学測定では複数の可逆な酸化還元波が観測され、多核錯体の柔軟な電子移動能が保持されていることが分かった。同様の測定を水の存在下で行ったところ触媒電流が観測されたことから、水の酸化反応に対する触媒能があることが示唆された。そこでH型の電解セルを用いて水溶液中で定電位電解を行った結果、酸素ガスの発生が確認され、本錯体が触媒活性を有していることが明らかとなった。また、導入した解離性プロトンの酸化還元挙動への影響を評価するため、水溶液中でpHを変化させながらサイクリックボルタンメトリーを測定した。酸化還元電位はpHが上昇するにつれて低電位シフトしておりプロトン共役電子移動過程であることが分かった。また、触媒電流の開始電位においても低電位シフトが観測され、これまでの同種の多核錯体よりも低い過電圧で反応が進行することが判明した。以上から解離性プロトンを導入することによって、柔軟な電子移動ができるだけでなく柔軟なプロトン移動が可能となり、その結果として水の酸化反応に必要な過電圧を低下させることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
配位子の合成および多核金属錯体の合成は首尾よく進めることができた。しかし、当初の想定に反し、得られた錯体にわずかな不純物が混入していることが分かった。研究遂行上、不純物は完全に取り除く必要があるが、これまで用いていた方法では精製が困難であることが判明した。そこで、精製方法の見直しを行い適切な再結晶条件を見つけたことにより錯体の精製が完了した。その後の基礎物性測定はおおむね順調に進展し錯体が当初の目的通りの性質を示すことが分かった。電気化学測定では目的の錯体の溶解度が低いという課題があったが、電極表面に錯体を担持して測定する方法を確立したことにより、水溶液中での測定が可能となり導入した解離性プロトンの効果を評価することができた。
目的の多核金属錯体の合成と精製に成功し基礎的な物性調査を行うことができたため、平成29年度に計画していた触媒機能の評価に首尾よくつなげることができた。また電気化学測定においても、錯体を電極表面に固定し水溶液中で測定する手法を確立できたことにより、多核錯体のpH依存性を詳細に調べることが可能となり、解離性プロトンの導入による水の酸化反応への影響を適正に評価することができた。
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月刊機能材料
巻: 37 ページ: 51~59
ChemPlusChem
巻: 81 ページ: 1123~1128
10.1002/cplu.201600322