本研究では、戦前期日本音楽療法実践の独自性について、東京都立松沢病院に現存する音楽療法実践記録書「病者慰安書類綴」を中心として、調査分析を行った。その結果、戦前期の松沢病院では、精神療法・作業療法の一環として、患者が楽器を演奏する「能動的音楽療法」と、楽曲・演芸・映画などを鑑賞する「受動的音楽療法」が継続的に行われていたことが判明した。具体的な音楽療法では、患者の文化土壌や趣味嗜好に合わせた楽器や楽曲が用いられ、刺激的な音色や歌詞などを排する傾向が認められた。さらに、松沢病院を中心としつつ、明治期から昭和戦前期にかけて、各地の精神病院では音楽療法実践が拡がっていったことも明らかとなった。
|