本年度は、第一にネパールの民主化・市場化に伴うカースト認識の変容の分析、第二にネパール食肉の近代化プロセスの調査・分析、第三に南アジアの肉食文化に関する比較民族誌的研究への着手を行った。 一つ目の課題については、米国コロラド大学で実施された国際学会で発表し、意見交換を行いつつ研究を理論的に洗練させた。その成果を、論文として英文国際誌で発表した。 二つ目の課題については、ネパールでの現地調査やメディアなどの言説分析を踏まえて、調理や家計を担う女性の役割に焦点を当てて食卓の近代化という観点について、研究を進めた。また、ネパールが国策として進めている食肉産業近代化事業の進捗や、その流れに乗りつつ官民提携事業として設立されたカースト役割を食肉加工とする人々の企業活動などに関して、現地調査に赴き、情報収集を行なった。 三つめの課題については、これまで調査していたネパールに加えて、南アジアの肉食文化の比較研究に着手した。昨年度のコルカタ出張に加えて、本年度は日本のネパール料理店、インド料理店での調査を行い、経営者にハラール対応のあり方やディアスポラコミュニティとの連携のあり方、エスニックアイデンティティのあり方などについて情報取集を行なった。これらの調査により、エスニックな規範や食文化とグローバル市場との接合のあり方、また近代化が進んでいる分野とそうでない分野の違いなど、南アジア全体の食肉市場の概観を得ることができる予定である。
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