研究実績の概要 |
これまでに,気水界面上で分子にかかる力と分子構造を計測することに成功し,気水界面での力学制御(メカノケミストリー)が可能であることを示している(Angew. Chem.-Int. Edit. 2015, 54(31) 8988-8991.).本論文では光学活性なビナフチルに対して親水基・疎水基を導入した分子が単分子膜を形成し,表面圧に応じた分子変形ができていることを,CDスペクトルの変化より確認している.疎水基がビナフチルの構造変化に与える影響を理解し,自在に分子構造を制御すべく検討を行う中で,疎水基を省いたキラルビナフチルが,脂質マトリクス混合下で気水界面で微結晶を形成し,外部からの力学的刺激により結晶化することを見いだした.力学的刺激前はキラルビナフチルはマトリックス脂質混合下,液相にあり,閉じたcisoid構造をしていることがCDスペクトルから確認できる.力学的刺激後は,マトリックス脂質/キラルビナフチル混合物は圧縮され,混合物中のキラルビナフチルは結晶化する.このとき,結晶中のキラルビナフチルは開いたtransoid構造をしている.結果として,力学刺激によって固体ー液体の相変化を引き起こし,キラルビナフチルを開閉(transoid-cisoid変化)する新たな手法を見いだした.この構造変化は予想外に繰り返し行うことが可能であった.これは,気水界面に生じたキラルビナフチルの結晶がナノサイズの薄さで準安定状態にあることに起因する.マトリックス脂質の構造や,キラルビナフチルとの混合比によって,本現象は変化したが,本質的な挙動,すなわち,気水界面での混合薄膜を圧縮すると結晶化,transoidへの変化を誘起し,また,これを拡張すると元の液状態,cisoidへの変化という挙動は同じであった.さらに,脂質のキラリティーはほとんど関係しなかった.このこの結果を論文に報告した.
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