研究実績の概要 |
H29年度の前半は、磁気センサなど実用スピントロニクス素子を実現する上で必須である多結晶薄膜素子において、ホイスラー合金組成の最適化をおこなった。合金系はCo-Mn-Fe-Ge系であり、同時スパッタ法を用いて、(Mn, Fe)およびGeの組成のGMR比に対する影響を調査した。その結果、(Mn, Fe)の組成比はGMR比に大きな影響がないものの、Ge組成が重要であり、Co:Ge = 2:1が最適であることがわかった。次に、GMR比のCo2(Mn0.6Fe0.4)Ge膜厚依存性からスピン分極を調査した。280 Cという比較的低温での熱処理にもかかわらず、電流のスピン分極率は80%であり、Co2(Mn0.6Fe0.4)Geは実用的に優れたホイスラー合金組成であると言える。 H29年度の後半は、非磁性スペーサー層の材料開発に注力した。従来、AgやCuなどの貴金属が用いられてきた非磁性スペーサー層に、AgSn/InZnOを用いることにより、GMR比30-40%を得た。従来のAg合金(AgSn)を用いたスピンバルブセンサに比べ、6倍大きな電圧出力(13 mV)を達成し、これによりハードディスクドライブの再生ヘッドなど微細磁気センサへの応用が期待される。また、AgInZnOを非磁性スペーサー層に用いることで、GMR比50%を得た。透過走査電子顕微鏡を用いた微細構造解析により、熱処理後のCPP-GMR素子薄膜においてAgIn合金導電層がMnZnO(MnはCo2(Mn0.6Fe0.4)Geホイスラー層に由来)マトリックスに不均一分散する組織を形成しており、これによりCo2(Mn0.6Fe0.4)Geホイスラー層の高スピン分極率との相乗効果で、実用的デバイス構造において50%という高い室温GMR比が得られると考えられる。
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