2018年に、Al-Mg-Zn準結晶でバルクの超伝導が発現することが発見された。電子比熱の温度依存性はBardeen-Cooper-Schrieffer(BCS)理論による計算結果と見分けがつかないことが明らかにされた。我々はこれまで、準周期系においては周期系のBCS-BECクロスオーバーと異なり、3つの超伝導状態が発現することを明らかにしてきた。特に、弱結合領域における超伝導状態は、BCS超伝導とは異なる空間的に広がった(Extended)超伝導であることを示してきた。 本研究では、準結晶の超伝導を理解することを目的として、超伝導ギャップの温度依存性、比熱の温度依存性、電流-電圧特性などの準周期超伝導体の物性を数値的に解析した。弱結合領域ではよい近似であると考えられるBdG平均場理論を用いて、ペンローズ構造上の簡単な理論模型(引力ハバード模型)を導入した。超伝導の実験観測量を計算し、BCS理論の普遍的な値と比較した。特に、超伝導転移時の比熱のジャンプは、BCS理論で知られる普遍的な値よりも10-20%程度小さいことを見いだした。このことから、実験結果はExtended超伝導状態と矛盾しないと言える。さらに、電流-電圧特性を計算したところ、周期系では電流が急激に増加するのに対し、ペンローズタイル上では電圧とともに電流が徐々に増加することが明らかになった。これらの違いは、準周期系における非自明なクーパーペアリング特性に由来するものである。
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