研究課題/領域番号 |
16H07449
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉山 龍介 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (10779664)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 植物二次代謝産物 / グルコシノレート / メタボローム / シロイヌナズナ / 統合オミクス解析 |
研究実績の概要 |
二次代謝産物の構造多様性は多くの天然物化学者を魅了してきたが、その生産意義を生理的役割の観点から実験的に証明できた例はごくわずかである。植物二次代謝産物であるグルコシノレートは、外敵に対する化学的防御物質であると同時に、植物自身の生命活動を制御するシグナルとしてもはたらくと考えられている。植物一個体が生産するグルコシノレートの側鎖構造は20種類にも及ぶため、本研究では「グルコシノレートの多機能性は側鎖の化学構造の多様性に由来するのか」に着目した。グルコシノレート分子種ごとの機能差を細胞レベルで検出することを目的とし、「植物培養細胞」と「メタボローム・トランスクリプトーム統合解析」を組み合わせた評価系の構築と活用を行った。 本年度は、化合物ツールとして利用するグルコシノレート類の化学合成と、グルコシノレートを生産するモデル植物であるシロイヌナズナを用いた各種評価系の構築を行い、以下の結果が得られた。 ①トリプトファン由来グルコシノレートの化学合成を行い、それをもとに分子ターゲット同定を指向したプローブ化合物を作製した。 ②様々なグルコシノレートで処理したシロイヌナズナ実生のトランスクリプトームを比較解析し、側鎖構造に起因する生理活性の多様性を検証した。特に、ストレス応答に関連する遺伝子群の発現変動パターンがグルコシノレートの種類によって大きく異なることが見出された。 ③シロイヌナズナ培養細胞および植物体のプロトプラスト化を行い、グルコシノレート処理に対する応答を細胞レベルで観察可能な評価系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では様々な側鎖をもつグルコシノレート分子種の活性差について、①グルコシノレート処理細胞のメタボローム・トランスクリプトーム、および②グルコシノレート分解物と直接結合する内在タンパク質という2つの角度からの検証を予定している。 ①については、各種グルコシノレートで処理したシロイヌナズナ実生のデータ取得・解析手法について予備検討を終え、グルコシノレート分子種に応じた発現変動遺伝子群の抽出にも成功した。今後、オミクスデータの再現性・統計学的有意差の確認とリアルタイムPCRなどによる検証実験を終えれば、論文化を期待できる段階まで達している。 ②については、論文記載のグルコシノレート合成法を再現でき、非天然型の誘導体合成にも成功した。一方で、放射性同位体標識グルコシノレートの合成には、収率・廃棄物・コストの面から合成ルートの再検討が必要であり、この点が課題である。非放射性プローブ化合物の合成は完了しているため、適用可能なグルコシノレート分子種は限られるものの、当初の目的である結合タンパク質の同定に向けた実験系構築は継続可能である。
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今後の研究の推進方策 |
①では、各種グルコシノレートで処理したシロイヌナズナ実生のデータ取得・解析手法について予備検討を終え、現在、十分な反復数を持つメタボローム・トランスクリプトームデータの取得に取り掛かっている。得られた結果について、予備実験の再現性および統計学的有意差を評価し、グルコシノレートに共通する変化(候補A)・特定のグルコシノレート分子種のみが示す変化(候補B)に該当する遺伝子群を選抜する。ストレス応答に関与する遺伝子群に大きな発現量変化が見られているため、これらを特に注視する。得られた候補遺伝子の変異株を取得し、より多様なグルコシノレート分子種に対する表現型を比較解析することで、グルコシノレートの生理機能と候補遺伝子との関係を明らかにする。 ②においては、グルコシノレートの14C標識化技術を引き続き検討していく。並行して、非放射性タグ分子を組み込んだ誘導体を用い、グルコシノレート分解物と直接結合する内在タンパク質の同定を目指す基盤技術を構築していく。解析モデルとして、細胞壁合成を制御することが知られる特異なグルコシノレート分子種の内在ターゲット同定を目指す。現在、アルキンタグを導入した誘導体を作成し、オリジナルと同様の生理活性を保持することが確認できた。この誘導体で処理したシロイヌナズナの全タンパク質を抽出し、蛍光官能基やビオチンと結合させることで、誘導体の分解物と直接結合している生体分子を可視化後、MS解析により同定する。候補遺伝子が本グルコシノレート分子種の活性に寄与しているかは、培養細胞やプロトプラストにおける一過性ノックダウンによって評価する。
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