研究実績の概要 |
二次代謝産物の構造多様性は多くの天然物化学者を魅了してきたが、その生産意義を生理的役割の観点から実験的に証明できた例はごくわずかである。植物二次代謝産物であるグルコシノレートは、外敵に対する化学的防御物質であると同時に、植物自身の生命活動を制御するシグナルとしてもはたらくと考えられている。植物一個体が生産するグルコシノレートの側鎖構造は20種類にも及ぶため、本研究では「グルコシノレートの多機能性は側鎖の化学構造の多様性に由来するのか」に着目した。グルコシノレート分子種ごとの機能差を細胞レベルで検出することを目的とし、「植物培養細胞」と「メタボローム・トランスクリプトーム統合解析」を組み合わせた評価系の構築と活用を行った。 前年度に得られたトランスクリプトームの結果を検証する過程で、シロイヌナズナに添加したグルコシノレートが予想よりも速やかに分解されていることが分かった。これは植物組織の破壊を伴わない未知の分解機構を介すると考えられたため、植物細胞内で生成する分解産物が従来の経路と異なる可能性が生じた。そこで本年度は、側鎖構造に由来する活性差の検証に先立ち、グルコシノレートに共通する細胞内分解のメカニズム解明を目指し、以下の結果を得た。 ①脂肪族アミノ酸由来グルコシノレートを重水素でラベルした誘導体を合成し、LC-MSを用いて分解産物の網羅的解析を行った。 ②液体培地中のシロイヌナズナに添加したグルコシノレートは速やかにイソチオシアネートに分解され、続いて化合物X, Yの蓄積が観察された。メタボロームおよびトランスクリプトームの解析から、この変換反応に必要な代謝物・遺伝子を複数同定した。 ③遺伝子発現およびグルコシノレート量の変動がグルコシノレート添加時の応答と類似している環境ストレス条件を見出し、両条件の比較解析を行った。
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