糸状菌Rhizoctonia solaniが原因となる紋枯病はイネの主要な病害である。現在、紋枯病の有効な防除法は殺菌剤に限られ、殺菌剤耐性菌の出現と地球環境変化により今後の被害拡大が危惧される。この状況はそもそもイネに紋枯病抵抗性品種が存在しないことに起因する。我々は、小型草本植物であるミナトカモジグサを用いた解析により、標準系統Bd21と比べて病徴が顕著に抑制される紋枯病抵抗性系統を複数同定した。これらが持つ抵抗性遺伝子資源および抵抗性発現機構は、イネにおける紋枯病抵抗性品種開発への応用が期待される。そこで、本研究では紋枯病抵抗性発現機構の解明と抵抗性を司る原因遺伝子候補の探索を行う。昨年度は、同定した抵抗性系統の特徴付けを行い、菌感染の抑止機構および抵抗性系統で特徴的な応答を明らかにした。今年度は、Bd21および抵抗性系統の1つであるBd3-1を交配したRecombinant Inbred lines (RIL)を用いて、紋枯病抵抗性形質のQTL解析を実施した。フェノタイピングは発病率および病斑面積率を指標として行い、ジェノタイピングはリシーケンスデータを基にゲノムワイドに設定したSNPを用いてMTA-seq(Onda et al. 2018)により行った。その結果、3番染色体上の1つの領域に発病率および病斑面積率の両者と強く連関するQTLが検出された。本領域内において、病害抵抗性遺伝子の性状を示し、かつBd3-1で発現している遺伝子を探索したところ、12個の遺伝子が該当した。これらのうち非同義置換を持つ8遺伝子を、ミナトカモジグサの紋枯病抵抗性を司る遺伝子候補として同定した。
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