大腿切断者に対し、膝継手のイールディング機能が使える条件(有効時)と使えない条件(無効時)の2条件で5°下り坂歩行を計測し、その動作特性の違いを評価した。7名中3名の下り坂歩行時では接地後にイールディング機能を用いた膝継手屈曲が生じておらず、事後解析の結果、イールディング機能を用いた膝継手屈曲が下り坂歩行中に生じた4名では生じなかった3名と比べ、歩行速度、歩幅が小さく、接地時に生じる床反力後方分力が増大する傾向が見られた。これらは生体力学的にも義足膝継手を接地後屈曲させる方法として合理的であり、イールディング機能を任意の条件で切断者が使用できるようになるためのトレーニングに活用可能である。上記成果について学会発表、論文掲載決定に至った。副次的なデータ解析として、データ提示がこれまで十分なされていないまま議論が進められている大腿切断者の平地歩行と下り坂歩行(イールディング機能無効時)で生じる力学的差異を今回計測したデータを用いて検証した。平地・下り坂歩行とも同等の歩行速度であったが、下り坂歩行では平地歩行に比べ、床反力内側方向成分(内外側方向の身体の安定性に寄与する)の増大が両側下肢で見られ、義足側下肢に生じる負荷の指標は減少傾向であったが義足の振り出しに関わる股関節パワー(筋がなす仕事の指標)の増大が見られた。下り坂歩行時、平地歩行と比べ健側では足関節のパワーの増大傾向が認められ、健側下肢への荷重量は個人差が大きいものの平均すると体重の10%以上平地歩行と比べ増大していた。上記は非切断者で生じるとされる膝関節周囲を中心とした力学的変化とは異なるものであり、下り坂歩行により生じうる大腿切断者の健側下肢への負担増大の可能性を示すデータが得られた。これらの内容を学会で報告し、論文も掲載決定となった。
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