研究実績の概要 |
本研究は、腎癌に対して小胞体ストレスおよびヒストンアセチル化誘導による新しい治療を開発することを目的としている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬は、分子シャペロンを抑制することで小胞体ストレスを誘導する。一方で、HIVプロテアーゼ阻害薬は分子シャペロンおよびプロテアソーム阻害作用を持つと共に、CYP3A4阻害作用も有するため、両者を併用することで相乗的に小胞体ストレスおよびヒストンアセチル化を誘導できると仮定して研究を進めている。今年度は、HDAC阻害薬entinostatとHIVプロテアソーム阻害薬ritonavirを用いて、これまでの実験の再現性の確認、およびin vivoにおける効果を検討した。当研究室で保有する腎癌細胞株(769-P, 786-O, Caki-2)を用いて、併用療法を行い、cell viabilityをMTS assayを用いて検討したところ、全ての細胞株において相乗的な殺細胞効果を認め、また、colony formation assayでは、有意なコロニー形成阻害能を認めた。細胞周期の変化を検討したところ、有意なsub-G1 fractionの増加を認め、いずれの実験でも再現性を確認できた。一方で、Caki-2を用いてヌードマウス皮下腫瘍モデルを作成し、in vivoにおける併用療法の効果を検討した。マウスをコントロール群、entinostat投与群(2 mg/kg)、ritonavir投与群(50 mg/kg)、併用群に分け、それぞれ腹腔内投与による治療を10日間行った。致死的な副作用は認めず、併用群においては腫瘍の増大が有意に抑制された(P = 0.0284)。さらに治療終了後にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、RIPA bufferを用いてlysateを作成した。ウェスタンブロット法による検討を行ったが、小胞体ストレスマーカーの発現、ヒストンアセチル化には有意な差が見られなかった。今後、免疫組織化学による検討を追加する予定である。
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