C型肝炎ウイルス(HCV)は患者肝臓内において複製レベルが低く抑えられていることが知られているが、ウイルスの細胞培養に用いられるHuh-7細胞等の肝臓由来細胞株は抗ウイルスシグナルが欠損または減弱しているため、肝臓内に発現するどのような宿主抗ウイルスシグナルがウイルス複製を抑制しているのかは未解明であった。そこで、正常な抗ウイルスシグナルを保持する稀な不死化肝細胞株であるPH5CH8細胞を用い、宿主RNAセンサータンパク質であるRIG-I様受容体やToll-様受容体の他、それらのシグナル伝達に関わるアダプター分子や転写因子をshRNAやCRISPR/Cas9を用いてノックダウンまたはノックアウトすることで抗ウイルスシグナル経路のマッピングを行なった。これらの細胞におけるHCVおよびA型肝炎ウイルス(HAV)の複製効率を評価したところ、これまで重要と考えられてきたRIG-I様受容体やToll-様受容体は肝細胞においてはウイルス複製の抑制にあまり寄与していないことが判明した。その一方で、抗ウイルス応答を介在することが知られている宿主転写因子がRIG-I/Toll様受容体とは異なる経路を介してウイルス複製を強力に抑制していることが明らかとなった。さらにRNAシークエンスを用いたtranscriptome解析により、この転写因子が標的とする新規抗ウイルス因子群を多数同定し、これらの標的因子がウイルス感染の初期段階を抑制していることを見出した。これらの標的宿主因子の中にはHAV、HCV、デングウイルスすべてに対して抗ウイルス活性を有するものが見出されたことから、今後これらの宿主因子の作用機序を追究することで、多くのRNAウイルスに対し普遍的に働効果のある治療法の開発へと繋がる可能性が示唆された。本研究により肝細胞における新規の抗ウイルス応答シグナル経路の重要な一端が明らかとなった。
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