様々なストレスによりアルコール依存への罹患が増大することが知られている。阪神淡路大震災や東日本大震災の被災地の疫学調査でもストレスによる飲酒量の増加や飲酒習慣の変化が示されている。オピオイドの標的受容体はμ、δ、κの三種類が存在し、ストレス反応や依存形成・鎮痛において重要な役割を果たすことが明らかにされている。しかし、現在まで、ストレスに起因する精神疾患とオピオイド伝達系の機能的役割について女性を排除した医学研究がほとんどであり、性差の観点から痛みを伴うストレスと精神疾患にオピオイド神経伝達系がどのように制御しているかは不明である。本研究では長期アルコール摂取に対する、病態機序にオピオイド神経伝達がどのように関与しているかについて、オピオイド受容体欠損マウスモデルを用いて解析することを目的とした。 今年度は、アルコールを強制的に長期摂取したμ、δ、κオピオイド受容体欠損マウスの移所運動量を雌雄両性で評価した。μオピオイド受容体ヘテロ欠損マウスではホモ欠損マウスや野生型に比べアルコール摂取量が有意に高値であった。さらに、アルコール摂取量の変化に性差があったことを示した。今回の実験結果から、μオピオイド受容体はアルコール摂取行動や依存性とを繋ぐ可能性のある候補分子であると推察できた。今後、性差の観点からストレスや疼痛、物質依存の神経基盤を明らかにすることで、有病率に性差が見られる共通の神経基盤を有する神経疾患の解明にも役立つ可能性が考えられる。本研究におけるμオピオイド受容体欠損マウスを用いたアルコールをはじめとする依存性薬物の精神依存形成やその維持機構の複雑さ、心理社会的ストレスと身体的ストレスの全ての過程と治療において性差の観点が重要であることが考えられ、今後も更なる多様的な検討を行っていく予定である。
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