「顧みられない熱帯病」の一つであるシャーガス病は、原虫クルーズトリパノソーマによって引き起こされる。中南米を中心に蔓延する感染症だが、日本にも移民を中心に4000人ほどの罹患者がいるとされる。現行の治療薬は副作用が強く慢性化してしまった患者にはほとんど効かないため、新薬の開発が強く望まれる疾患である。この原虫は代表的なモデル生物とは異なる特殊な細胞機構をもっているため遺伝学的手法の確立が遅れていたが、近年CRISPR/Cas9システムによる遺伝子改変の新しい手法が提案され、ドラッグターゲット探索への可能性が大いに開けた。 初年度には、CRISPR/Cas9システムによるノックアウトのルーチン化に向けてプロトコルの最適化を行い、蛍光タンパク質をターゲットとしたコントロール実験において効率的にシグナルを消失させることに成功した。 最終年度は、そのシステムを利用し、近縁の原虫ブルーストリパノソーマにおいて必須とされるいくつかの遺伝子がクルーズトリパノソーマにおいてもドラッグターゲットとして妥当であるかの検証を行った。ノックアウト後の表現型は、原虫の成長カーブと奇形の有無によって評価し、実際にクルーズトリパノソーマの必須遺伝子を特定した。更に、その遺伝子を大腸菌で大量発現するためのクローニングを行い、創薬研究の次のステップである阻害剤のスクリーニングや三次元構造解析へと繋げることができ、当初の目標を達成することができた。
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