研究課題/領域番号 |
16H07478
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
伴場 由美 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (30779541)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽フレア / フレアトリガ / 太陽黒点 / フレア予測 / 宇宙天気 / ひので衛星 / SDO衛星 / IRIS衛星 |
研究実績の概要 |
本研究は、物理過程の理解に基づいた太陽面爆発・噴出現象の発生予測パラメータの決定を目的とする。このため、(1) 理論モデルの観測的検証による太陽面爆発・噴出現象の物理過程の理解、(2) イベント統計解析による予測パラメータの決定と予測実験による評価の2つの過程を通して物理過程を理解し、予測パラメータを決定する。
平成28年度には、主に理論モデルの観測的検証を行った。特に、2014年10月に太陽面上に現れた巨大黒点で連続的に発生した大規模フレアに着目した。まず、特徴的なフレアリボンが観測されたX1.0クラスフレアについて、ひので・SDO衛星による磁場構造の詳細解析と数値シミュレーションを比較した結果、シミュレーションよりもはるかに複雑な磁場構造の下で発生したフレアイベントであっても、その発生過程は我々の提案するフレアトリガモデルで説明可能であり、フレア発生条件も我々のモデルと定量的に一致することを確認した。これにより、シミュレーションで考えられているフレア発生のための幾何学的条件が、実際の太陽表面ではより柔軟であり、我々のフレアトリガモデルの適用範囲を広げる可能性を示唆した。(Bamba et al., 2016)
さらに、同じ黒点領域で発生した別のX1.6クラスフレアに対し、ひので・SDO衛星による磁場構造と太陽大気中の発光現象の解析に加え、IRIS衛星による分光観測データの解析を行い、我々のモデルで提案しているような、光球面に現れる特徴的な小規模磁場構造の上空でフレア発生前に短時間の発光現象として観測される彩層のダイナミクスを解析した。結果として、フレア発生の原因となる、黒点領域の大局的磁場と、黒点領域中に現れる小規模な磁場との繋ぎかわりが、光球上部から彩層下部という低高度で起こっていることを確かめた。(Bamba et al., under review)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、(1) 理論モデルの観測的検証による太陽面爆発・噴出現象の物理過程の理解、(2) イベント統計解析による予測パラメータの決定と予測実験による評価、を通して、物理過程の理解に基づいた太陽面爆発・噴出現象の発生予測パラメータの決定を目指す。平成28年度には、当初の計画通り、主に(1)に注力し、太陽観測衛星による複数のフレア観測データの解析を行った。これまでに、光球面における平面的な幾何学的構造によるフレア発生条件の検証を行ってきたが、フレア発生の原因となる、異なるスケールの磁場の繋ぎかわりが、太陽表面からどの程度の高度で発生しているかという部分については、観測的検証がなされていなかった。平成28年度に実施した研究成果により、異なるスケールの磁場の繋ぎかわりが、通常フレア時に磁場の繋ぎかわりが見られるコロナよりも低高度の彩層で発生していることがわかった。これにより、光球面における微小な磁場構造変化が、上空の大規模な磁場構造の不安定化に決定的に影響するという、理論モデルの最も基本的かつ重要な部分を観測的に確かめた。加えて、理論モデルで提案しているフレア発生のための幾何学的条件が、実際の太陽表面ではより柔軟である可能性を示唆したことで、より現実的な初期条件を与えた場合のシミュレーションが実施された。したがって、観測的検証からの示唆を、シミュレーションにフィードバックし、理論モデルの改善に大きく貢献したといえる。さらに、当初平成29年度に実施する予定であった(2)について、フレアイベントの統計解析および予測実験を行うための衛星観測データ自動解析プログラムの基礎を完成させた。したがって、太陽面爆発・噴出現象発生の物理過程に対する理解が進展しており、さらに次年度に実施予定の統計解析・予測実験にスムーズに移行できる準備まで終えたため、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本研究計画のもう1つの柱である(2) イベント統計解析による予測パラメータの決定と予測実験による評価を主に行う予定である。まず、平成28年度に基礎を完成させた自動解析プログラムを改良し、これまでの研究成果から見出された物理パラメータを、SDO衛星データに対し自動的に測定する。この際、フレアを起こさなかった領域に対しても同じパラメータを測定することで、各パラメータとフレア発生との相関を統計的に評価する。さらに、新たに出現した黒点に対し、フレア発生と相関が高かったパラメータの自動測定結果を入力することで、当該領域での爆発・噴出現象の発生の有無を予測する実験を行う。予測値と実際のフレア発生との相関を評価することで、より高精度な予測に適したパラメータを決定していく。
また、平成28年度の成果で、観測的検証から新たな物理的知見が得られたため、(1)のイベント解析も継続して行っていく。今後は特に地球近傍の宇宙環境に影響を及ぼした爆発・噴出イベントに着目して詳細な解析を行う。イベント解析から新たなパラメータの候補が見出された場合には、(2)の統計解析に随時組み込み、予測実験を通して評価を行う。
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