本研究は、物理過程の理解に基づいた太陽面爆発・噴出現象の発生予測パラメータの決定を目的とする。このため、(1) 理論モデルの観測的検証による太陽面爆発・噴出現象の物理過程の理解、(2) イベント統計解析による予測パラメータの決定と予測実験による評価、の2つの過程を通して物理過程を理解し、予測パラメータを決定する。
平成29年度には、主に(2)のイベント統計解析を行った。SDO衛星によって観測された32例の大規模フレアイベントを解析し、理論モデルとの整合性を評価した。具体的には、理論モデルから示唆される、①フレア発生領域に現れる特徴的な小規模磁場構造、②小規模磁場構造上でフレア発生前に見られる断続的な発光現象、③フレア発生直後に見られるフレアリボン、の3つの観測的特徴が見られるか調べた。これにより、32例のフレアイベントを①から③の特徴に応じて6つのタイプに分類した。6つのタイプには、理論モデルで提唱されている2つのタイプ、理論モデルでフレアが発生しないとされる条件に一致するタイプ、②の前兆発光現象または③のフレアリボンのいずれかのみを示すタイプ、が含まれる。解析の結果、3割のイベントが理論モデルと定量的に一致し、理論モデルのフレア発生条件と矛盾するイベントはなかった。一方で、残る7割については、理論モデルから示唆される重要な観測的特徴(前兆発光現象またはフレアリボン)を示さないものもあり、したがって本研究で着目している理論モデル(Kusano et al. 2012)以外の物理的解釈も可能であるものもあった。しかし、前年度に行った(1)の観測的検証の過程で、理論モデルにより提案されるフレア発生のための幾何学的条件が、実際にはより柔軟である可能性も示唆されており、今後はこれらの7割のイベントについて追加解析を行い、詳細な物理過程の検証が必要であるという指針が得られた。
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