研究実績の概要 |
高齢者は多病であることが多く、疾患ごとに薬剤を処方することで多剤併用の状態に陥りやすい。介護老人保健施設(老健)では、通常、ひとりの医師が入所者の治療にあたるため、複数の疾患を有する入所者の薬物療法を総合的(疾患横断的)に管理する良い機会となる。一方で、保険医療機関ではないため、ほとんどの薬剤に対する給付が認められておらず(介護報酬に包括されている)、経済的な制約の中で薬物療法を提供する必要がある。本研究では、老健入所者の薬物療法について、経済的及び臨床的な観点の双方から検討を行った。本研究で得られた以下の成果は、国内学会及び国際誌にて報告した。
(1)全国老人保健施設協会の調査研究事業で得られたデータを用いて経済的な検討を行った。解析対象となった1,324人(350施設)において、薬剤費には大きなばらつきがみられた。入所時の薬剤費(中央値)は7,955円であったが、入所2ヵ月時は4,700円であり、入所後に有意な薬剤費の低下がみられた。薬剤費と入所者特性との関連を評価したところ、介護報酬を規定する重要な因子である要介護度と薬剤費との間には明らかな関連はないことを見出した。また、抗認知症薬等が薬剤費に占める割合が高いこと及び入所後に後発医薬品の使用割合が増加することも示した。
(2)老健2施設の新規入所者(1年間以上対象施設への入所がない人と定義)を対象として、薬剤種類数及び高齢者に特に慎重な投与を要する薬物(PIM)の処方実態を調査した。解析対象者数は328人であり、女性が68%、平均年齢は83歳であった。薬剤種類数は平均で5.4種類であり、多剤服用の目安として6種類以上の処方は45%にみられた。また、PIMの処方は全体の2/3にみられ、薬剤種類数が6種類以上の入所者では81%、5種類以下では51%と、薬剤種類数の増加に伴いPIMの処方割合も高いことを示した。
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