研究実績の概要 |
本研究では、生活習慣病におけるω3不飽和脂肪酸摂取による抗炎症効果を介した脳神経保護効果と骨格筋量の改善効果に着眼した。初年度は脳内炎症に関連するミクログリアについて、ω3不飽和脂肪酸による炎症抑制作用とその分子機構を検討し、ω3不飽和脂肪酸は、ミクログリアにてSIRT1を特異的に活性化させ、NF-kBリン酸化を抑制することにより炎症性サイトカイン産生を抑制し、細胞小器官の品質管理・機能維持に寄与する可能性を初めて明らかにした(Inoue et al., Biochim Biophys Acta (BBA), 2017)。 最終年度では、飽和脂肪酸であるパルミチン酸によって筋管細胞から分泌されるマイオカインとしてChemokine (C-X-C motif) ligand 1 (CXCL1)を同定し、筋再生における作用について検討した。パルミチン酸によって増加したCXCL1遺伝子発現はNF-kB阻害剤によって抑制された。マウス骨格筋由来のサテライト細胞にCXCL1 RNAiを行ったところ、Notchシグナルの低下と細胞増殖・筋管形成・自己複製の低下が認められた。さらに、CXCL1の受容体CXC receptor 2遺伝子発現量がパルミチン酸により増加し、飽和脂肪酸は筋再生不良を引き起こすと同時にCXCL1分泌を惹起する事が示された。本研究の結果、CXCL1はサテライト細胞のNotchシグナルを制御し、筋管形成を円滑に進めることで骨格筋の恒常性を維持する作用を有するマイオカインであることが示唆された。CXCL1の作用の減弱が、肥満・糖尿病における筋量低下・サルコペアに繋がる可能性が推察され(Masuda et al., Acta Physiologica 2017)、現在、マウス母胎へのω3不飽和脂肪酸・飽和脂肪酸投与による胎児の脳・骨格筋形成への影響を検討している。
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