研究課題/領域番号 |
16H07501
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研究機関 | 大阪市立環境科学研究所 |
研究代表者 |
梅田 薫 (中田薫) 大阪市立環境科学研究所, 調査研究課微生物保健グループ, 研究員 (90332444)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 伴侶動物 / 公衆衛生 / 動物由来感染症 |
研究実績の概要 |
近年、抗菌薬の汎用により様々な細菌で薬剤耐性菌の出現が認められている。中でもペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系に代表されるβラクタム系抗菌薬を分解・不活化するβラクタマーゼ産生菌は、院内感染事例や、医療環境、畜産分野、環境を含めた拡散が問題となっている。βラクタマーゼ産生菌は、分解する抗生物質の種類から、主に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌、セファロスポリナーゼ(AmpC)産生菌、カルバペネマーゼ産生菌(CPE)の3種類に分類されている。伴侶動物はヒトと生活域を共有し密接な関係を持つことから、伴侶動物が保有する病原体はヒトに直接移行しうる。よって、伴侶動物におけるβラクタマーゼ産生菌の分布実態を明らかにすることは公衆衛生上重要な課題である。 本研究では、伴侶動物におけるβラクタマーゼ産生菌の保有状況を詳細に把握し、伴侶動物が保有するβラクタマーゼ産生菌がヒトに感染して健康に影響を及ぼす可能性を評価することを目的とする。具体的な研究項目は、①大阪市内の多様な生活環境下にあるイヌ・ネコにおけるβラクタマーゼ産生菌(ESBL産生菌、AmpC産生菌、CPE)の保有状況調査 ②伴侶動物から分離した菌株と、同地域でヒト臨床領域から分離された菌株との、表現型(薬剤耐性パターン、血清型等)・遺伝子型(薬剤耐性遺伝子保有状況、PFGE、MLST等)の相互比較 ③調査動物の個体情報・生活環境と菌保有状況との統計学的検討、の3つである。得られた成果は、薬剤耐性菌の蔓延予防対策、普及啓発活動等の公衆衛生行政に寄与することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪市動物管理センターに収容されたイヌ151頭、ネコ182頭(平成26年度、27年度の先行研究および、28年度の総計)のβラクタマーゼ産生菌保有状況を調査した。その結果、第3世代セフェム系薬剤に耐性を持つESBL産生菌(イヌ9頭;6.0%、ネコ14頭;7.7%)および、AmpC産生菌(イヌ15頭;9.9%、ネコ6頭;3.3%)が検出された。カルバペネム系薬剤に耐性を持つ菌が6株分離されたが、ディスク法による薬剤感受性試験等の結果、それらはカルバペネマーゼ産生菌(CPE)ではないことが分かった。調査頭数も十分確保することができ、予想を上回る菌株数が検出できた。 イヌ・ネコから分離されたESBL産生菌、AmpC産生菌について、菌種は1株(肺炎球菌)を除いてすべて大腸菌であった。O血清型、ESBL遺伝子型、AmpC遺伝子型は多様であり、ヒトの臨床分野でよく分離される型も含まれていた。保菌と生活環境(飼育、野良)との有意な関連性は認められず、分離株のPFGE型は多様であった。伴侶動物がESBL産生菌、AmpC産生菌を保菌する原因・要因として、飼い主等ヒトからの移行、食品や環境中からの移行、獣医療における抗菌薬の使用による獲得などが挙げられる。動物の生活環境と菌保有との関連性が特に認められなかったことや、分離菌株の遺伝子型の多様性から、ESBL産生菌、AmpC産生菌の保菌要因は単独ではなく、複数の要因が相互に関連している可能性が示唆された。このように、ヒト臨床株との関連性やイヌ・ネコの保菌要因もある程度推測することができた。 よって、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究および、平成28年度の調査から、大阪市内のイヌ・ネコは、βラクタマーゼ産生菌(ESBL産生菌およびAmpC産生菌)を高率に保有していることが明らかになった。平成29年度においては、伴侶動物から分離されたESBL産生菌およびAmpC産生菌、計44株について、より詳細な遺伝子型別を実施する。具体的には、CTX型の決定(ESBL)、MLST型の決定、O genotyping、Phylogenetic typeの決定である。また、大阪市内でヒトから分離されたβラクタマーゼ菌株および、既報のヒト流行型と比較し、伴侶動物から分離したβラクタマーゼ産生菌にヒト臨床領域における流行型がどのぐらい含まれているのかを明らかにする。伴侶動物の個体情報・生活環境(動物種、性、年齢層、所有者の有無、健康状態等)と、菌保有やその遺伝子型との関連性について、ベイズ推定、フィッシャーの直接確立検定などの統計学的手法を用いて詳細に解析する。これらの成果から、地域内の伴侶動物におけるβラクタマーゼ産生菌分布状況の正確な把握および、伴侶動物に分布するβラクタマーゼ産生菌の由来の推測、伴侶動物が保有するβラクタマーゼ産生菌がヒトに感染し、健康に影響を及ぼす可能性の評価が可能となると期待される。今後の研究計画は、おおむね当初の計画通りである。 また、研究成果の発信を積極的に行う。具体的には、獣医師会主催の勉強会における講演、学会発表(獣医師会、獣医学会)、論文発表、研究所のHP上での情報発信等を予定している。
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