研究実績の概要 |
本研究は、放射線照射により特異的に食品に含まれる DNA 中の thymidine から生成する損傷ヌクレオシドである 5,6-dihydrothymidine (DHdThd) を指標とした新規照射食品検知法の開発を目標としている。DNA は幅広い食品に含まれる為、本法は多様な食品に適用できる検知法と成り得る。食品照射線源としては、γ線および電子線等が主に利用されている。我々は、γ線照射した畜水産物等の試料において本法の有効性を既に報告した。電子線照射食品に対しても本法の適用性を示すため、レバー試料を電子線照射し、γ線と同様に DHdThd の検出を試みた。その結果、電子線においてもγ線照射時と同様に線量依存的な DHdThd 生成が確認され、その線量に対する生成効率も同等であった。従って、本法は電子線照射試料の検知に有用であることが示された。DHdThd は不斉炭素の存在により異性体(5R-または5S-DHdThd)を持つが、線源の違いによりこの異性体比が異なっていた。電子線とγ線照射における線量率の違いから、試料温度に差が生じていることが考えられた。そのため、試料温度と異性体比との関係性について詳細な検討を実施中である。また、照射後に長期冷凍保管した試料および加熱した試料を用いて DHdThd 検出を試み、DHdThd の線量依存性が保たれていたことから、本法が冷凍保管・加熱に耐えうる手法であることが示唆された。その他、本法をより簡便化し、適用食品の幅を広げるため、DNA の抽出・精製法の改良を行った。レバー試料における DNA 抽出にヨウ化ナトリウムを用い、収率を改善できた。また、複数種の香辛料から市販のキットを用いて抽出した DNA からも DHdThd を検出できたが、香辛料によっては DNA 収量の改善等課題も残された。今後は、より多種の試料での本法の適用性を検討する他、近年実用化が期待されている低エネルギー電子線照射時およびX線照射時の DHdThd 生成についても検討する。
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