研究課題/領域番号 |
16J00012
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
武藤 拓之 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 空間的視点取得 / 空間認知 / 身体化認知 / 心的回転 / 社会的認知 / 身体表象 |
研究実績の概要 |
本年度の最も重要な成果は,空間的視点取得の際に全身移動のシミュレーションが行われることを示す強力な実験的証拠を得たことである。具体的には,取得する視点の位置までの移動経路が空間的視点取得の身体化プロセスを変調させることが示された。この知見は,身体イメージの柔軟性を解明する上でも大きな手掛かりとなることが期待される。 また,本年度は人が有する身体イメージの性質を解明するための研究も実施した。まず,人が心的に操作することのできる身体表象には「手─全身」という2つの次元が存在することが実験により示された。さらに,自力で動かすことのできない身体部位である耳の左右を判断する課題において,頭部の運動シミュレーションが用いられることも明らかにした。 さらに,空間的視点取得課題で用いられるエージェントの形状が身体移動イメージの使用に影響すること示す一連の研究も実施した。この研究の副産物として,研究代表者らは空間的視点取得における対面バイアス現象を発見した。この現象は,前後の向きが曖昧な人らしい物体を見た時に,実際にはその物体(人)が自分の方を向いていないのにもかかわらず,あたかも自分と対面しているかのように誤認してしまうバイアスである。これまでの研究において,進行方向が両義的なランダムドットウォーカーの観察中にも類似した現象が生じることが報告されてきたが,研究代表者らはさらに, (1) 静止画に対しても対面バイアスが生じる場合があること,および (2) この対面バイアスが,明確に正解が存在する課題においても生じるほど強力かつ自動的なものであることを初めて実証した。この知見は,人の社会性の進化的起源を理解する上で極めて重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,人が自分とは異なる視点から見た物の見え方を把握する(空間的視点取得)際に用いる身体イメージの柔軟性を解明することを目的としたものである。これまでの研究から,空間的視点取得における身体イメージの役割を示す強力な証拠を提供することができた。また,本研究の副産物として,人の社会的認知に関わる新たな現象を発見することもできた。これらの成果は,本研究課題の主目的である身体イメージの柔軟性と密接に関連するものである。身体イメージの柔軟性それ自体に関してはまだ十分に解明できていない点もあるが,今のところ進展はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
空間的視点取得で用いられる身体移動イメージの柔軟性の本質に迫るため,対応づけパラダイムの導入や空間的視点取得の方向の操作などを実験に取り入れ,本研究課題の完遂を目指す。
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