研究課題
人は,自分とは異なる視点から見た物の見え方を想像することができる。このような視点の操作を支える認知過程は,運動機能のような身体性と密接に関連していると考えられている。本研究課題は,身体性に依拠した視点の操作の認知過程の柔軟性について多角的なアプローチを用いて検証を行い,有益な知見を獲得することに成功した。本研究の最も重要な成果は,自分とは異なる視点に立って物の見え方を想像するときに,自分の身体を移動させるような運動イメージが用いられることを発見したことである。また,従来の研究では,特定の空間認知課題で優勢となる認知的・身体的方略が何であるかという点のみが強調されてきたが,個人差に着目した研究から,運動シミュレーションに頼る人と頼らない人の両方が存在することも明らかになった。さらに,様々な形状の刺激や文脈を操作した一連の実験から,人が課題や状況に応じて異なる視覚的方略や身体的方略を柔軟に使い分けることができることも明らかになった。例えば,傾いた文字が正像か鏡像かを判断する課題や空間的視点取得課題において,文字の傾きや取得する視点の向きによって異なる認知処理が用いられることが実験的に示された。加えて,高齢者を対象とした研究から,空間認知課題における身体性への依存の程度が加齢に伴って増大することを示す証拠も得ることができた。以上のように,本研究を通じて,視点の操作に関する空間認知能力のメカニズムや柔軟性について,多様な視点から有益な知見を獲得することに成功した。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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