研究実績の概要 |
本研究課題は微生物の走光性を担う光受容膜タンパク質であるセンサリーロドプシンの光信号伝達機構を解明するべく、発色団レチナールの構造変化およびレチナール-蛋白質間相互作用を明らかにすることを目的として遂行された。平成29年度においては、独自に開発したIn situ光照射固体NMRを用いてセンサリーロドプシンの光中間体を補足し、得られた光中間体レチナールの化学シフト値とその配座の関係性についてDFT計算を用いて明らかにすることで、発色団レチナールの詳細な構造の決定した。 光照射固体NMRにおける光中間体の観測に関しては、レチナールの13C=14C結合のtrans/cis配座変化と相関があるレチナール20位のメチル炭素および15C=Nε結合のsyn/anti配座変化と相関のある14位の炭素原子を13C安定同位体標識したレチナールを保持した膜タンパク質、センサリーロドプシンを用いて行った。その結果、センサリーロドプシンの1つであるファラオニスフォボロドプシン(ppR)に関して-60℃の温度条件にて既存に報告されているM中間体とは化学シフト値の異なるN’中間体の補足に成功した。また、光照射固体NMRに関しては光源のLEDの波長を用意に切り替えることのできるシステムを構築し、主としてM中間体に対する近紫外光(365 nm)照射によってM中間体からO中間体への変換が促進される反応経路が明らかとなった。さらに、DFT計算の結果からO中間体の配座は13-trans,15-syn型であることを解明した。ppRのO中間体の固体NMRによる補足は本研究が初めての観測例である。また、同様のDFT計算の結果からN'中間体は13-cis配座から大きくねじれた構造をとっている事も明らかとなった。まとめとして、本研究では上記の結果を踏まえ、N'中間体を含んだ新規の光反応過程を提唱している。
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