研究課題
昨年度、我々はらせん軸方向からソリトンを出入りさせるプロセスを考え、減磁過程におけるヒステリシスを評価し、臨界磁場の約0.4倍でソリトンが入る様子を数値的に明らかにした。これを解析的な視点からも評価するため、我々はらせんの端で作られる表面バリアの効果をカイラルサインゴルドンモデルを用いて解析した。この解析手法は、一般的にソリトンや渦構造などが相転移の性質を決定する物性に対して、ヒステリシスを評価する際に有効な手法である。カイラルらせん磁性体の絶対零度における表面バリアは、Hs = (4/π2)Hc ~ 0.4Hc の磁場において初めて消失することが示され、ヒステリシスの幅を解析的に評価することに成功した。これは数値的な結果とも、実験的な結果 ともよく一致する。一方で、らせん軸に垂直方向からソリトンが出入りする際には、らせん軸を含む二次元平面に磁壁を生成する必要がある。MnSiやFeGeといった立方晶系のカイラル磁性体については、磁壁に関する研究がいくつか存在するが、CrNb3S6 などの一軸性カイラルらせん磁性体に関しては理論的な研究はまだされていなかった。我々は、一軸性カイラルらせん磁性体のモデルにおいて、磁壁を含む状態を生成することに成功し、磁壁を生成することによって作られる多数の準安定状態と、ソリトン数を変化させる際のエネルギーバリアを評価した。また、磁壁の構造を詳しく調べ、磁壁の生成・消滅過程とソリトン数の変化が、磁気構造の連続変形によって得られることを示した。さらに、磁壁の大きさのパラメーター依存性を調べたところ、磁壁の大きさが磁場や温度には依存せず、らせんに垂直な面内の交換相互作用、DM相互作用、およびオンサイトで働く異方性で決定されることが示された。カイラルらせん磁性体 CrNb3S6 において実現される磁壁は、大きさが約8 nmであると見積もられ、これは高磁場における実験結果とオーダーが一致する。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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Physical Review B
巻: 97 ページ: 024408
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.97.024408