本研究は、膜貫通領域に共通の物理化学的性質を持つ“タンパク質群”が、小胞体膜のフリップフロップを促進しているという仮説を実証し、小胞体膜のフリップフロップ促進機構を解明することを目的としている。今年度は、①モデルペプチドを用いて、どのような物理化学的性質がフリップフロップを顕著に促進するかをについて検討し、さらに、②ヒト細胞を用いて、EDEM1が小胞体膜フリッパーゼかを調べるための条件設定を行った。 研究①では、膜貫通ヘリックス中に存在する2つの親水性アミノ酸残基(Arg、His)の位置の違いが、ペプチドのフリップフロップ促進能に与える影響について評価した。ArgとHisの間隔が1~5残基のモデル膜貫通ペプチドを、Fmoc固相合成法により作製した。蛍光分光法を用いてペプチドのフリップフロップ促進能を評価したところ、ArgとHisの間隔が3、4残基のペプチドが高い活性を示した。αヘリックスは3.6残基で1回転するため、2つの親水性アミノ酸残基が、ヘリックスの同じ面に位置することがフリップフロップ促進に重要であることが示唆された。 研究②では、ヒト細胞としてHEK293細胞を用いて、ミクロソーム画分の分画、及び、ミクロソーム画分を用いたフリップフロップ測定の条件設定を行った。細胞破砕液から遠心分離法によりミクロソーム画分を分画し、ウエスタンブロットによりミクロソーム画分を精製できたことを確認した。蛍光分光法を用いてミクロソーム画分のフリップフロップを測定したところ、ラットの肝臓由来のミクロソーム画分を用いて得られたこれまでの研究と同様に、t1/2=十数分という速いフリップフロップが見られた。
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