研究課題
報告者は、化学(生物)発光タンパク質と蛍光タンパク質を膜電位感受性ドメインに繋げる事で、世界初の化学発光膜電位指示薬、LOTUS-V(Luminescent Optical Tool for Universal Sensing of Voltage)を開発する事に成功した。そして光照射で細胞の膜電位を制御する事が可能な光遺伝学ツールを用いた実験と、LOTUS-Vを用いた膜電位イメージングを共に組み合わせる事が可能である事を証明した。またLOTUS-Vが、iPS細胞由来心筋細胞における長時間の薬剤評価実験に有用であることも証明した。蛍光指示薬を用いて上記の結果を再現する事は難しく、LOTUS-Vが神経科学と心臓科学の分野において非常に有用である事を示している。そして報告者は以上の結果をまとめ、論文を一報(Scientific Reports)総説論文も二報(Current Opinion In Chemical Biology, Drug Delivery System)発表してる。上記の実験と並行して報告者は、自由行動中のマウスの発光イメージング法を確立し、これもScientific Reports誌に報告した。そしてこのシステムをLOTUS-V用に最適化し、自由行動下におけるマウスの視覚野の活動を計測する事に成功した。上記の結果は、自由行動中の動物における新規の脳活動計測法を開発した事を意味しており、光ファイバーを用いた計測よりも、シンプルな光学システムで脳活動を計測する事が可能である。よってマウスの社会的活動を計測する上で有用であり、神経科学の分野において非常にインパクトがある。そして報告者は多くの学会でこの結果について発表し、昨年度だけでポスター賞を3つ受賞した。
1: 当初の計画以上に進展している
報告者はアデノ随伴ウィルスを用いて、LOTUS-Vをマウスの第一運動野に発現させ、頭部固定下で発光イメージングを行った。結果として、トレッドミル上のマウスの移動速度と、第一運動野の活動には正の相関がある事が分かり、またマウスが運動する直前から、第一運動野の活性化が見られた。さらに報告者は、LOTUS-Vを用いた発光イメージングの特性を活かし、光ファイバーなしに、マウスの第一視覚野の活動を自由行動下で計測する事に成功した。そして暗箱中でマウスが移動するに伴い、第一視覚野の活動が上昇している事が明らかになった。以上の結果は、マウスの随意運動における脳の活動をLOTUS-Vを用いた発光イメージングで計測が可能である事を意味しており、非常に重要度が高い。また報告者が開発した自由行動下における脳活動計測法は、マウスに与えるストレスが少ないため、マウスの随意運動を妨げる可能性は極めて低いという利点がある。また報告者はKENGE-tetシステムを利用し、ハウスキーピング遺伝子であるβアクチン遺伝子部位にLOTUS-VをtetOプロモーターと共にノックインしたマウスを作製した。そしてCaMKIIα-tTAマウスと交配を行い、興奮性神経細胞特異的にLOTUS-Vを高発現するマウスの作製に成功した。すでに脳の広範囲にわたって、LOTUS-Vからのシグナルが得られる事は、ex vivoの実験により確認済みである。よってこのマウスを実験に用いる事で、脳の広範囲の領域における脳活動計測が今後可能になる事が期待される。
報告者はLOTUS-Vを用いて、マウスの運動野と視覚野における活動を計測する事に成功したが、さらに深部からの脳活動を計測するために、LOTUS-Vを赤色化する。現在、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)ドナーとなる化学発光タンパク質と、BRETアクセプターとなる蛍光タンパク質の組み合わせを試しており、次年度はリンカー配列や蛍光タンパク質の異なる組み合わせを試すことで、赤色化した新規膜電位指示薬の開発を行う。そして大脳皮質表層の活動はLOTUS-V、深部は赤色化した化学発光膜電位指示薬を用いる事で、マウスの運動運動指令形成の過程を明らかにすることを目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Scientific Reports.
巻: 印刷中
巻: 7, 42398
10.1038/srep42398
Proc. The 23nd International Display Workshop in conjunction with Asia Display
巻: なし ページ: 57-60
Current Opinion In Chemical Biology
巻: 33 ページ: 95-100
10.1016/j.cbpa.2016.05.023
Drug Delivery System
巻: 31-2 ページ: 119-126
http://doi.org/10.2745/dds.31.119
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bse/index.html
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/events/achievement/inagaki-nagai-20170213/