本年度の研究実施状況は①エジプトのマウリド(生誕祭)の研究、②非ムスリム認識研究の二点にまとめられる。 ①に関しては、博士論文の執筆作業、現地でのフィールドワーク、学会・会議での報告を主に実施した。まず、博士論文については、論旨および構成は既に構想済みである。論文では、マウリドの一側面としてアルーサ(砂糖菓子人形)の生産・販売・消費を挙げ、アルーサに関する多様な言説をタラル・アサドの言説的伝統概念(1986)を用いて論じる予定である。 昨年度と同様、現地でのフィールドワークも多く実施した。2018年4月から2019年2月にかけて4回のマウリド調査を行った。中でも、アブー・ハッジャージュのマウリドは、エジプトのマウリドの多様性を把握する上で不可欠であった。当調査を下敷きにし、現代エジプトのマウリドに関して、南北で異なる特徴を持つと主張していく予定である。 また、マウリドの「衰退」論に関しては、特定のマウリドに対しては、衰退よりもむしろ隆盛しているとさえ述べることができるとわかった。もちろん、参加者の増加が直接隆盛を直接意味するわけではなく、さらなる調査が必要である。しかしながら、報告者の一連の調査・研究に鑑みれば、一面的なエジプトのマウリド衰退論には疑問符を付けざるを得ないといえる。 ②については、共同論文の執筆、学会での報告を行った。昨年度から継続して、日本における非ムスリムのムスリムに対するイメージと受容的態度に関する研究である。本研究は、日本人の非ムスリムがムスリムをどのように認識しているか、そして「認識すべきか」という点において、「マウリドが日本においてどのような現象として認識されるべきか」という博士論文での関心と結びつく。
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