研究課題/領域番号 |
16J00123
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
太田 茜 甲南大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | C. elegans / CREB / 温度記憶 / 温度適応 |
研究実績の概要 |
動物は環境情報を神経系で記憶し、その記憶に応じて適切に環境に応答や適応することができる。本研究では、動物の脳神経のしくみと記憶のメカニズムの解明を目指し、線虫の温度適応をもちいて、記憶の解析モデルの確立を目指した。温度適応とは、25℃飼育個体は2℃で死滅するが、15℃飼育個体は2℃でも生存できる現象である。興味深いことに、25℃飼育個体を、3時間15℃に移動させることで2℃で生存できることが、見つかっている。つまり、何らかの温度記憶が、わずか3時間で置き換わると考えられる。しかし、この温度記憶がどのような組織で制御されているかは未知であった。本研究では、まず、ホ乳類から線虫まで記憶に関わることが知られている転写因子であるCREBに着目した。温度適応テストの結果、野生型が3時間で新しい温度に適応するのに対して、CREB 変異体(crh-1)は5時間かかった。rh-1変異体の神経系において、CREBcDNAを発現させたところ、crh-1変異体が示す低温適応スピードの異常が回復した。一方、腸でCREBcDNAを発現させた系統では、異常は回復しなかった。以上の結果から、CREBは神経系において、新温度への適応スピードを制御していると考えられる。温度適応記憶に関わる遺伝子をさらに単離するために、温度を変化させた際の遺伝子発現変動をNGSをもちいたRNA sequencingでとらえ、顕著に発現変動している遺伝子の候補を同定した。 温度記憶変化の可視化による定量化については、温度刺激に応じたASJ感覚ニューロンの生理的動態を、Genetically encodableなカルシウムインジケーターをつかい可視化し定量化した。 また、精子がASJをフィードバック制御すること、ASJ内のGタンパク質を介した温度情報伝達機構、多型株の温度記憶のゲノム解析も進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物の温度応答解析のシンフプルな実験系として低温馴化の実験系をもちいて、低温馴化には神経系におけるCREBを介したメモリー機構が含まれていることが見つかったため。Ca2+インテジケーターを使い温度メモリーに関わるニューロンの活動の一部が定量的できたため。温度シフト時に発現変動する遺伝子群を世代シークエンサーをもちいたRNA sequencingで測定できたため。また、精子がASJをフィードバック制御すること、ASJ内のGタンパク質を介した温度情報伝達機構、多型株の温度記憶のゲノム解析も進展したため。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き温度記憶に関わる遺伝子をスクリーニングする。顕著に発現変動している遺伝子に関して、ノックアウト系統バンクの既存の系統に関して、温度に対する個体の表現型や、既に明らかにした温度情報伝達に関わる神経回路の可視化を行う。ノックアウト系統がない遺伝子に関しては、当研究室に存在する約2万個の遺伝子に関する網羅的RNAiスクリー ニング用ライブラリーをもちいて、RNAi系統の解析を同様に行う。 温度適応の書換え時間の制御が、神経系のCREBによって制御されていることが示唆されて いるため、温度適応メモリー成立する3時間における、温度適応の成立前後のASJと下流の神経回路のカルシウム動態などを時空間的に定量的に解析する。
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