今年度は、以下の2つの研究成果を得た。 (1) 前年度より継続し、バックプロジェクション (BP) 法およびハイブリッドバックプロジェクション (HBP) 法に対して、手法の数学表現を精査し、数値実験を行うことで、BP/HBP法によって得られる高周波シグナル強度が、系統的な深さ依存性を示すバイアスを有することを明らかにした。これにより、先行研究において提案されていた巨大地震における高周波放射と断層滑りの深さ依存性が、断層上の地震破壊特性に起因するものではなく、手法によって歪められた解に基づく解釈であった可能性を指摘した。そこで、高周波シグナル強度と、断層滑り運動を直接結びつける新たな定式化を考案し、数値実験ならびに実地震への適用によって、新たなBP/HBP法は、高周波シグナルから断層滑り速度あるいは破壊伝播速度を抽出することが可能であることを確かめ、さらに従来は見過ごされていた、断層浅部における高周波励起を伴う不均質な滑りパッチが存在しうることを提案した。 (2 )従来の波形インバージョン法は、モデル断層上に分布させる要素震源におけるせん断滑り面を、モデル断層の幾何によって解析者が予め規定していた。こうした解析者によるせん断面 (モデル断層面) の恣意的な規定により、真の断層形状とモデル断層形状が一致せず、モデリング誤差により解が歪められる可能性がある。そこで、断層形状の時空間発展と、断層滑りを同時に求める新しい波形インバージョン法を開発し、2015年ネパール地震、2016年アセンション地震、2018年インドネシア地震へ適用した。これにより、急峻な断層傾斜により破壊成長が制限される様子や、断層の折れ曲がり領域における破壊の乗り移り、破壊進展経路の逆戻り (バックプロパゲーション) など、従来の枠組みでは解像することの難しかった、巨大地震にみられる不規則な破壊成長様式を予察的に得た。
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