研究課題/領域番号 |
16J00301
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
才木 真太朗 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 樹木水分生理 / 森林生態学 / 樹木乾燥枯死 / 乾燥適応 |
研究実績の概要 |
小笠原は谷から尾根にかけて土壌が浅くなり明瞭な乾燥勾配が存在する。この勾配に沿って樹高や種組成が大きく変化する。本年度の研究では、乾燥勾配に沿った乾燥耐性形質の可塑性を3固有樹種間(テリハハマボウ、シマイスノキ、シマシャリンバイ)で比較した。テリハハマボウは、乾燥地に向かい葉と枝の水容量(葉と枝の水のキャパシタンス)と葉の細胞壁の弾性係数が高い傾向を示した。すなわち、葉や枝の水ポテンシャルを高く保ち脱水を回避する戦略を示した(回避型)。シャリンバイは、乾燥地に向かい葉の萎れ点が低く枝の水切れ耐性が高い傾向にあった。すなわち、葉と枝は水ポテンシャルの低下に対し高い耐性を持ち、脱水に耐える戦略を示した(耐性型)。シマイスノキはこの両種の間特性を示した(中間型)。一般的に回避型は、気孔調節により植物の水分量が保たれ(水ポテンシャルが高く保たれ)葉のしおれや木部道管の水切れを回避する。しかし、回避型のテリハハマボウは乾燥地に向け道管の水切れが起こる傾向を示した。テリハハマボウは他の2種に比べ葉や枝が低コストである(葉が薄く、材密度は低い)。野外で萌芽個体が観察されることからも、気孔調節や葉や枝の水容量で対応できない乾燥に対し、葉を枝ごと落とすことで致死的な脱水を回避しているかもしれない。一方耐性型は、乾燥期でも高いガス交換効率を示し光合成が高く保つため乾燥地で有利とされている。実際に耐性型のシマシャリンバイは、各環境の枝の水ポテンシャルの低下に対し十分に高い水切れ耐性能力を持っていた。しかし、乾燥地では枝の水切れが起こる個体も見られ、高いガス効率交換によって強い脱水を回避できないことと関係するかもしれない。興味深いことに、中間型のシマイスノキの枝の水切れ耐性は各環境の枝の水ポテンシャルにちょうど耐える値を示し、枝の水切れの程度は水環境の変化の影響を受けにくい傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の具体的な目標は、1)乾燥が穏やか年と極端な乾燥年の両方において、2)乾燥強度の勾配に沿って、枝の通水性や葉の水利用効率といった水収支と光合成速度や枝の炭水化物の量や質といった炭素収支を測定することである。28年度は、目標1)の乾燥が穏やかな年であり乾燥年と比較するために必要なデータがおおむね取れている。また、目標2)に関しては小笠原固有種であるテリハハマボウ、シマシャリンバイ、シマイスノキの成木を、山の谷部から尾根部にかけた土壌深さに関係した土壌乾燥勾配に沿って、葉と枝の乾燥耐性にかかわる生理特性を測定することができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の目標は、1)GISデータを用いたリモートセンシングによって現在の植生分布と、生育環境に基づいた予測分布可能域との比較を行うことと、2)28年度の研究を引き続き行い、今年度との比較を行うことである。目標1)については現在、ドローンを用いたリモートセンシングを行っている共同研究者との研究打ち合わせを行っている。加えて、調査地である小笠原諸島父島の戦後からの航空写真を入手しており、過去から現在にかけた植生の変化も含めて解析を行い、現在の植生がどのように形成されてきたかを戦後からの航空写真を用いた時系列データから考察する。 目標2)については、4月下旬現在において調査地である小笠原諸島父島では昨年の12月からの降雨が少なく、貯水ダム量が3割を切るという乾燥した状況にある。これが夏まで続けば島の森林植生は脅威的な乾燥を体験する(約100年に1度の極端な乾燥が起こる)。このような危機的状況を科学的に評価する予定である。
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