研究課題/領域番号 |
16J00303
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
久保 真紀子 日本大学, 理工学部, 特別研究員(PD) (40793386)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | カンボジア / アンコール / ジャヤヴァルマン7世 / プレア・カン / 仏教 / ヒンドゥー教 / 出入口装飾 / 尊像配置 |
研究実績の概要 |
本研究は、カンボジアのアンコール朝の最大版図を築いたジャヤヴァルマン7世統治期(12世紀後半~13世紀初)に建造された寺院群に着目し、寺院伽藍内に表現された王の世界観や宗教観、ならびに政治的意図を明らかにすることを目的としている。報告者はこれまで、この王の治世初期である1191年頃に建造された大規模な仏教寺院プレア・カンに焦点を当て、その寺域で発見された石碑に刻まれた記述内容を精査するとともに、寺院伽藍を構成する各施設の出入口に施された装飾(以下、出入口装飾とする)を中心に調査を行い、その図像表現に込められた象徴的意味やその配置構成について考察した。 平成29年度は、プレア・カンの伽藍西側と伽藍北側の施設群の出入口に浮彫されたヒンドゥー教図像に着目して研究を行った。これらの区域には、シヴァ神やヴィシュヌ神が登場する様々な神話の場面を表した浮彫の他、叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公ラーマや、『マハーバーラタ』にも登場するクリシュナといった英雄たちの雄姿を表す浮彫が多数確認できる。それらヒンドゥー教図像が、観音菩薩を本尊とする仏教寺院プレア・カンにおいて何故表現されたのか、そこに建造者ジャヤヴァルマン7世のどのような意図が表現されているのかといった点について、プレア・カンならびにその他いくつかの寺院で確認された浮彫や碑文史料をもとに考察した。結論として、プレア・カンの伽藍に仏教尊像とともにヒンドゥー教図像を表した背景には、アンコール朝の過去の王たちが築いた聖地に対するジャヤヴァルマン7世の支配権を明示する意図とともに、当時アンコール朝とその影響力が及んでいた周辺諸地域との関係を、ジャヤヴァルマン7世が信仰した仏教を中心に、ヒンドゥー教や祖先信仰の諸神が取り囲む尊像配置によって、この寺院伽藍に象徴的に表現する意図があった可能性を指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、当初計画していた2回の海外調査(ラオス1回、カンボジア1回)のうちラオス調査のみ実行した。カンボジア調査は、資料整理の進行具合により実施できなかったが、平成30年度に行う計画を立てている。 ラオス調査では、南部チャンパサック県のワット・プーをはじめとするクメール遺跡を実見し、ヒンドゥー教の信仰のもとに表現された数々の浮彫装飾を詳細に調査することができた。この調査の成果については、論文「アンコールの仏教寺院プレアカンにおけるヒンドゥー教図像の解釈」の中で言及した。この論文の内容については、学会で口頭発表も行い、関連諸分野の研究に携わる先生方から有益な助言を頂戴し、見識を深めることができた。その他、平成29年度はもう1本の論文「プレア・カンのピラスターに表された図像の配置構成」を執筆した。平成29年度に執筆した上記2本の論文は、ともに平成30年度中に刊行される予定である。さらに、前年度から準備してきた英語論文が完成に近づいており、平成30年度中に海外の学術誌に投稿予定である。この論文の投稿によって、海外の研究者との意見交換をさらに活発に行い、クメール美術史および関連書分野の研究者のネットワーク構築を進めたい。 以上のように、当初の計画よりもやや時間がかかっているものの、じっくりと研究に取り組んで着実に成果を挙げることができているので、「おおむね順調に進展している」と評価したい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、引き続きこれまでの調査で収集した諸資料の整理および分類を継続するとともに、ジャヤヴァルマン7世統治期の寺院伽藍に多く認められる浮彫の主題に焦点を当て、何故この時期にそれら特定の主題が多くの箇所に浮彫されたのかを、碑文史料の記述内容と照らし合わせながら考察したい。具体的には、ヒンドゥー教の神話や叙事詩の場面を主題とした浮彫や、ジャータカや仏伝といった仏教説話を主題とした浮彫に着目する。 また、平成29年度のワット・プー調査に続いて、カンボジアの北部から北東部に残る遺跡の現地調査を行う予定である。4~5月には、シエムレアプ州の遺跡調査とともに、プレア・ヴィヒア遺跡をはじめとして、カンボジア北部に分布するシヴァ信仰の寺院で調査を行う予定である。併せて、ヴィシュヌ信仰の寺院についても可能な限り情報収集や現地調査を行い、ジャヤヴァルマン7世統治期に、仏教とヒンドゥー教の様々な図像が混在する寺院伽藍が成立した背景について、さらに深く考察してゆく。
|